2019年5月3日から5月5日まで、大規模eSportsイベント「Intel Extreme Masters Sydney 2019」(IEM Sydney 2019)が開催された。これに合わせて、Intelはメディア向けに、ノートPC向けの第9世代Intel Coreプロセッサを改めて紹介するとともに、同CPUを搭載した最新ゲーミングノートPCを公開した。
ノートPCでも8コア、そして5GHz駆動へ
ノートPC向けの第9世代Coreプロセッサは、4月23日にIntelが発表したばかりのCPU。今回は型番に「H」が付くTDP 45Wの製品で、高いパフォーマンスが求められるゲームやコンテンツ制作向けのものとなる。製品の詳細は大原雄介氏の記事を参照してもらいたいが、ここでも簡単におさらいしていこう。
ノートPC向け第9世代Coreプロセッサでは、まずコア数/スレッド数が増加した。第8世代の最上位モデル「Intel Core i9-8950HK」は、6コア/12スレッドだが、第9世代では最大で8コア/16スレッドが実装されている。また、動作クロックも引き上げられた。第8世代では最大で4.8GHz(ターボブースト時)だが、第9世代では最大5GHz(ターボブースト時)で駆動する。
デスクトップPC向け製品と同じように、ノートPC向けでも第8世代→第9世代で多コア化、周波数の向上が図られていると考えていい。
CPUを含めた「システム全体」の強化をアピール
また、足回りも強化されている。メモリは最大128GBの搭載が可能となった。ストレージはOptaneメモリをキャッシュとして使ったIntel Optane memory H10 with Solid State Storageに対応、さらに通信機能ではWi-Fi 6に対応した無線LANモジュール「Wi-Fi 6 AX200」もサポートする。
ノートPC向け第9世代Coreプロセッサを紹介したIntel General Manager of Gaming and VR/AR SalesのLee Machen氏は「かつて『プラットフォーム』といった場合、CPUそのものを指していたが、いまはメモリやストレージ、ネットワークなど、システムとしてのパフォーマンスやユーザー体験に影響を及ぼすものを含む」という。つまり、単純なCPU性能だけでなく、インタフェースまわりも含めてシステム全体のパフォーマンスをアピールしたい考えだ。
Intelが公開したパフォーマンスデータによると、3年前のエンスージアスト向けPCと比べて、最新ゲーミングノートでは、全体的なシステム性能(SYSmark 2018)が最大33%向上。ゲームでのFPS(Total War: WARHAMMER II)が最大56%、ターン時間(Civilization 6)は最大38%高速化するという。また、Adobe Premire Proによる4K動画編集も処理速度が54%早くなったとしている。
会場で披露されたデモでは、3年前のASUS製ノートPCと最新PCでHit man2のベンチマークテスト(フルHD/最高設定)を実行。3年前のPC(第6世代Core+GeForce GTX 970M)は平均22.74fpsのところ、最新PC(第9世代Core+GeForce RTX 2080)は61.09fpsとなった。GPUのグレードが違うので、直接の比較できないが、最新PCではDX12かつ最高設定というかなり重い設定でも現実的なフレームレートでプレイできることがわかるはずだ。
「(かつてゲーミングノートPCでのゲームプレイは妥協が必要だったが)いまはノートPCでもゲームに妥協はない。モビリティを優先するユーザーはノートPCに移行するだろう。一方でデスクトップ製品も非常に好調に推移している」(Machen氏)。
2019年後半に向けて対応製品が拡大するはずのWi-Fi 6
IntelがノートPC向け第9世代Coreプロセッサで、特に推しているのが「Wi-Fi 6」対応だ。Wi-Fi 6は次世代の無線規格「IEEE802.11ax」の新しい呼び方で、規格自体は従来と比べて、高速な転送速度(理論値で11acの1.5倍となる約9.6Gbps)、レイテンシの低減、複数のデバイスを接続したときのパフォーマンス向上といった特徴を持つ。日本市場でもASUSやネットギアから対応ルータがすでに発売されている。
Intelは2019年4月に無線LANモジュール「Wi-Fi 6 AX200」を発表し、ノートPC向け第9世代CoreプロセッサやvPro対応の第8世代Intel Coreプロセッサなど、対応製品を拡充している。また、2019年中の投入を明言している次世代CPU「Ice Lake」でもWiFi 6をサポートする。現状は対応デバイスは限られているが、2019年後半にかけて対応スマートフォンやPCが増えてくると思われる。
Machen氏は「私自身は家の中で、Wi-Fiを使ってゲームプレイしているが、広い帯域、低いレイテンシ、接続デバイスを管理しやすいといったメリットからいますぐにでもWi-Fi 6にアップグレードしたい。無線通信は信頼性でも大きな進歩を遂げている。競技シーンでは干渉などさまざま影響を考慮して有線接続が使われるが、ホームユースでは100%無線に移行すると考えている」と話す。
とはいえ、会場のデモはゲームとはあまり関係ない「NASからのデータダウンロード」。確かにWi-Fi 5(IEEE802.11ac)と比べて平均速度は高く、落ち込みも少ないが、実ゲームでどのくらい効果があるかわからない。特にゲーマーはレイテンシが気になるところだろう。
薄くなったといってもゲーミングノートでは、有線LANポートを備えたものが多く、ゲーマーの中では有線信仰も高いので、無線への移行はゆるやかなものになるだろう。
ゲームの次はクリエイター向け
さて、ノートPCの性能が上がるにつれて、ゲームだけでなくコンテンツ制作といった部分でも活用されるケースが増えている。IntelではPCベースのコンテンツ制作者は1.3億人を超えると見込んでいる。
最大128GBの大容量メモリ対応や、動画編集のパフォーマンス向上、Adobe Photoshop/Lightroomのavx2命令最適化など、クリエイターにも第9世代Coreプロセッサを訴求したい考えだ。
ゲーミングノートPCのデザインも変化しつつある。エンスージアスト向けは従来と同様にかなり厚みがあるほか、ごつごつとした印象を受ける。また、LEDによるイルミネーションも派手だ。一方で薄型ゲーミングノートPCはかなりすっきりとしたデザインで、天板ロゴも目立たなくなっており、LEDを点灯しなければ普通のノートPCとあまり変わらない形になっている。
このところ、薄型ゲーミングノートPCに対して、「ゲームだけでなく、コンテンツ制作、ビジネスにも使える」とアピールすることが増えてきたが、これがさらに加速されることが予想される。
Razerは「Blade」シリーズで、DAWソフトのFL Studioをバンドルしているが、コンテンツ制作系のソフトウェアのライセンスが付属するケースが増加するかもしれない。また、MSIやAcerのようにゲーミング製品で培った技術を基にクリエイター向けPCブランドを新たに立ち上げるといった動きをみせるメーカーも増えるだろう。