伊豆エリアにおける「観光型MaaS」実証実験で導入される専用アプリ「Izuko」は、ドイツのダイムラー子会社「ムーベル」と共同開発したという。ドイツ企業とアプリを共同開発した理由、「観光型MaaS」の今後の戦略などについて、今回のプロジェクトを牽引する東京急行電鉄交通インフラ事業部課長の森田創氏に話を聞いた。

  • 4月5日に「観光型MaaS」実証実験の取材会が行われ、多くの報道関係者らが集まった

■「新しい交通モデルを立ち上げてきた実績」を評価

――「Izuko」はムーベルと共同開発したとのことですが、なぜムーベルなのか教えてください。東急電鉄とムーベルは以前から付き合いがあったのでしょうか?

ムーベルとは、今回が初めてのお付き合いになります。今回のアプリ開発は5カ月間という超短期プロジェクトだったので、それに耐えうるノウハウとローカライズできる柔軟性が必要でした。

ドイツは日本と同様、交通に対する厳しい法規制がありますが、ムーベルはその中で規制緩和を行い、各交通事業者と調整して(MaaSを含む)新しい交通モデルを立ち上げてきた実績があります。また、そうしたビジネスを立ち上げる過程での泥臭い作業もいとわない同社の姿勢に共感したのも、今回お付き合いさせていただいた理由になります。

ドイツでムーベルが行ってきたプロセスは、今後、我々が日本で行うビジネスにおいても、大いに参考になります。

――日本のローカルな課題を解決するというプロジェクトにおいて、海外勢と組んでみて、リスクや障壁を感じませんでしたか?

ムーベルの開発者は、開発期間中に何度も下田を訪れ、ローカルな課題をひとつひとつ、ていねいに拾い上げてくれました。彼らのそうした姿勢を見て、信じて損はなかったと思いました。

――MaaSに関しては、他社の参入も相次いでいます。今後、「Izuko」を広めていく戦略はお持ちですか?

私の個人的な考えですが、MaaSは「デジタル世直し」だと考えています。先端技術を用いて地域の課題をどう解決し、その地域に何をもたらすかというのが本質であり、どのアプリを使うかというのは入口にすぎません。

もちろん、当社がMaaSを他地域に展開する際、「Izuko」をローカライズして使っていくことができれば、それに越したことはありませんが、プラットフォーマーとして覇権争いをするつもりもありません。もし、より良いアプリが出てくれば、そちらに乗り換えることも、きっと検討すると思います。

――アプリが乱立すると、ユーザの利便性が損なわれませんか?

たしかにそれはその通りだと思います。しかし、MaaSで先行するヨーロッパでも、都市ごと、地域ごとにご当地アプリのようなものがあり、そういうものなのだと思っています。

最終的にはいくつかのアプリに収斂(しゅうれん)されていくかもしれませんが、それはまだ先のことだと思います。現段階では、我々のように試行錯誤し、どういうところに課題や可能性があるのかを身をもって体験すべきなのではないでしょうか。

■交通系ICカードの課題解決にも

なお、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、伊豆でサイクル競技が行われる予定となっている。ただし、観客の足となる伊豆箱根鉄道は交通系ICカードに対応していない。また、交通系ICカードを使ってJR東日本エリアからJR東海エリアに行く際、降車駅での精算が必要となる「エリアまたぎ」の問題に対する不満も大きい。

今回のアプリは伊豆半島内に閉じた実証実験だが、実用化に向けて利用エリアが拡大すれば、交通系ICカードにまつわるさまざまな問題をも一気に解決するカギになるかもしれない。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。テレビ、ラジオにも多数出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。