■テレビシリーズのときは必死だった

――黒沢さんは演じていて共感できると感じたことはありますか?

黒沢 久美子とはもうだいぶ長いこと一緒に過ごしてしまったので、共感するところ、共感しないところが明確じゃないんです(笑)。ただ、(塚本)秀一との関係と彼に対する久美子の決断は自分のなかにはない答えでした。

――そのタイミングで、と確かに思いました。

黒沢 なんであのタイミングなのか……。

――ただ、私が高校生のときも吹奏楽部でコンクール前という「ここで!?」というタイミングで別れたカップルがいました。たまたまだったかもですが、吹奏楽部あるあるなのかもしれません。

雨宮 それは、楽器に集中したいからなんですか? 付き合っていると「いま私、楽器に集中できていないんじゃないか」というストイック精神的なやつが生まれちゃうんですかね?

――恐らく、そういった精神的なものかと……。あとは、全体の空気なのかもしれません。コンクール前ってどうしても雰囲気がピリピリしているので、自分たちだけ「付き合って楽しんでいる」と周りに思われたくないのかも。周りが感じていなくてもそういう心持ちになるのかもしれません。

雨宮 なるほど、輪を乱さないようにする……。色々とあるんですね。

――私は指揮者だったので、前から見ていてその日の空気とかも何となく分かったんですよね。色恋だけじゃなくて、友達付き合いとか、先輩・後輩の関係とか……。

雨宮 人間関係の指揮も担当されていた?

――そこまで大層なことはできないです(笑)。ただ、空気が悪くならないようにふざけたり、緩んだときには締まるようにしたりということは考えていました。

雨宮 そうなんですね! 指揮者ってやっぱり大変だ……。

――まぁ、どこまでできていたかわからないですが(笑)。続いて、アフレコ現場の雰囲気についても教えてください。雨宮さんは今回から『ユーフォ』の一員に加わりましたよね。

黒沢 どうでした?

雨宮 なんか、あの、本当に教室みたいというか、若い現場だなって思いました。今回、物語の冒頭で久美子と秀一のシーンがあるのですが、秀一についてみんながワイワイと話をしていたのを見て「若い現場だな」って。あと、収録時間が長かったのでお弁当もみんなで食べたのですが、色々なグループに分かれていて学校ライフ感があるなと感じました。

――ワイワイしていた?

雨宮 特にメインの方々がワイワイしていて、若々しかったというか……

黒沢 うるさかったって言っていいよ!(笑)。

雨宮 いや、新入りでも気を遣わなくて、いい空気だったんです! 引っ張ってくれる感じもありましたし、気を遣っていただいていたとは思うのですが、そう感じさせない気の遣い方をしていただいて一員になりやすかったんですよ。

黒沢 天ちゃんが優しくてよかった!

――そんな黒沢さんは現場の雰囲気をどう感じていましたか?

黒沢 数人ほどしか新しく加わっておらず、支えてくれる部員の子たちも変わらなかったので、「ただいま」という感じはありました。今思い返すとテレビシリーズのときの現場への向き合い方は「必死にやっています!」という感じでしたね。

――なるほど。

黒沢 ただ、もう22歳になりましたし、すでに北宇治高校のキャストのみんなのことも知っていたので、今回は終わった後に「楽しかったね」「この座組でまたやりたいね」と言ってもらえる作品にできるのが一番だなと私の気持ち自体が変化していたんです。それに、演者みんなの一丸となった空気感ってフィルムにも乗るなって思ったんです。だから、今回は楽しく、朗らかにということを意識しながら収録に臨みました。

雨宮 前のシーズンはそんな思いを抱えていらっしゃったなんて……。そんなこと全然思えないくらいとても活気がありました。すごいです……。

■あの言葉で前に進めるようになったんじゃないかな

――そんなアフレコを終えて映像も完成したいま、お二人が本作において特に心に残っているセリフを教えてください。

黒沢 私は「下手くそな先輩は罪ですよね」っていう奏の言葉が胸に刺さっていまだに忘れられません。

雨宮 あの言葉はオブラートに包まずストレートに言っていますよね。

黒沢 あとは「頑張ってもどうにかならないことなんてあるよ。そんなことばっかりだよ」というのも共感できました。

――『ユーフォニアム』のセリフは吹奏楽部経験者にはもちろんですが、経験していない方にも響く言葉が多いなと思います。

黒沢 “響い”ていますか?

――“響い”ています。「響け!ユーフォニアム」です。響きまくってます。

黒沢 ありがとうございます!

黒沢 天ちゃんの“響い”たセリフを教えて!

雨宮 響いたセリフ!?……『響け!ユーフォニアム』!……はい、えっと、ですね。

雨宮 とんでもないです(笑)。私は「頑張ったからあんなに上手く吹けるんでしょ、ずっとずっと頑張ってきたんだから」っていうのを久美子に言われて奏が泣くシーンが印象に残っています。奏を演じたということもありますが、一番グッときた瞬間でした。きっと彼女はずっと認めてもらいたかったんです。あの久美子の言葉は奏がずっと言われたいことだった。彼女の過去まで救われた、あの言葉で前に進めるようになったんじゃないかな。

――話も尽きませんしお二人の関係をいつまでも見ておきたいところですが……お時間がきてしまいました。最後に今回、吹奏楽部を題材とした作品に関わってみて、元々持っていた吹奏楽部へのイメージに変化があったかどうか教えてください。

雨宮 ありました。吹奏楽部ってこんなシビアな世界なんですね。スポーツは勝負してぶつかり合うというイメージがわきやすいのですが、吹奏楽部もこんなに熱くて、ストイックな世界だということを思い知りました。コンクールも狭き門じゃないですか。しかも個人ではなく、集団の技。だからと言って手を抜いていいわけじゃなくて、自分の音も含めて全員で合わせないと奏でられないので、難しい世界だなと思いました。

――難しくもあり、それが吹奏楽の醍醐味ともいえるかもしれません。

雨宮 そうですよね!

黒沢 私はこの作品に長く関わってきたので、元々どう思っていたのかすぐには思い出せないですが……少なくとも思っていたより爽やかな世界なんだなとは感じました。正直、学校の楽器を借りる人はみんなでワイワイ楽しみたい人、楽器を買う人は本格的に取り組む人という勝手なイメージだったんです。ただ、北宇治高校の子って意外と持ち楽器の人が少ないんですよ。でも熱のある部活動ができています。だから、楽器を持っているとかそういうことじゃなくて、みんなのモチベーションによって金賞まで取ることができる、夢のある部活だなと思いました。

あとは今回の映画を観ていただければ分かるように、代(世代)によって演奏の良し悪しが変わるというのも面白いなと思いました。

――コンクールは特に演奏する楽曲や入部した方によって編成も変わりますからね。A編成でコンクールに出場するなら課題曲の選定によって自由曲の組み合わせも変わってくる。でも、みんなが一丸となったときの演奏の感動はあまり変わらない気がします。本作でも、一丸となったときの演奏、そしてその背景を映像でみたら涙が止まらない気がします。

雨宮 吹奏楽部の人にはぐっちょぐちょに刺さりそうですね。嬉しさも悔しさも、経験した人はより刺さるような作品になっていそうです。そこも見どころだと思います!

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会