今回は坂元氏とともに、同ドラマの制作チームである日テレの水田伸生監督と次屋尚プロデューサーも来場。水田監督は、坂元氏に対する印象をこのように話してくれた。
「『Mother』『Woman』『さよならぼくたちのようちえん』『anone』の4作を同じチームで作っていくうちに、互いに話しやすくはなっていると思いますが、緊張感はまるで変わらない。坂元裕二のシナリオは映像化の難易度が高い。だから、常に戦う気持ちで臨んでいます。坂元さんは撮影したシーンがイメージと違うと、『撮り直そう』と言ってくれる。そんなこだわりを持ってくれる脚本家です」
『Woman』トルコ版が制作されている際、このチームで現地に赴いたこともある。そのときのことを、3人それぞれがエピソードを交えて教えてくれた。
「撮影現場は日本と同じだなと思いました。カメラマンの中山光一さんもいらっしゃって、トルコの撮影クル-の中に溶け込まれていました。水田監督もトルコの監督の横に並んで。僕はというと、日本でもトルコでも撮影現場は脚本家の居場所はなくて…(笑)」(坂元氏)
「私は役者の方にどんな風に演じてもらいたいか、それなりにイメージを持ってはいますが、わりと言ってみれば、ドキュメンタリータッチに撮ります。カットに芝居を当てはめず、『カメラに向かってどうぞご自由に』とやってもらうと、リアリティが生まれてくるからです。トルコも同じような撮り方でした。日本のオリジナル版を尊重してもらったのか、使っていたカメラもレンズも同じだったこともあり、演出に違いはありますが、映像のタッチが(日本のオリジナル)と近いものがあります」(水田監督)
「トルコ側とのコミュニケーションを通じて、物語の伝えたいメッセージや、コアの部分(根幹)を理解してもらっていると感じることができました。こうしたやり取りからもトルコのチームに信頼を寄せています。昨年、『Mother』韓国版がカンヌの国際ドラマ祭にノミネートされたときには、韓国の制作チーム(スタジオドラゴン)とお会いし、我々が目指している作品づくりと通じる思いを確認することができました。それはトルコもしかり。目指しているものが同じだからこそ、リメイクにおいても良作が作られる。誰でも(リメイク)できることではないと、そんなことも思いました」(次屋プロデューサー)
■日本のドラマが豊かになるきっかけに
こうした制作事情からも、良作であるがゆえの理由を知ることができる。実際に、トルコ版の『Mother』は2017年、『Woman』は2018年に、東京ドラマアウォードで「海外特別賞」を受賞するなど、同シリーズ関連は国内外で数多く評価を受けているのだ。注目度が上がることによって、NetflixやAmazonプライム・ビデオなど、グローバルプレイヤーと組む機会も広がっていくだろう。そんな可能性があることに対し、坂元氏はどう考えているのだろうか。
「個人的には、日本でドラマを作ることに閉塞感を持っています。『こういう作品しか見てもらえない』と、そんな声すらある。僕自身はビジネスのために書いてはいませんが、海外に出ることによって、結果としてビジネスになればうれしいことです。僕が普段作っているドラマに一瞬でも希望の光を与えることになる。『日本のドラマは今、どこに向かっているのだろう』と不安にもなる中で、おこがましくも、日本のドラマが豊かになるきっかけになればうれしいです」
今回カンヌで発表された通り、『Mother』と『Woman』が実績のあるフランス大手のスタジオ「Incognita Films」でフランス語にリメイクされることによって、日本のドラマが広く知られるきっかけを、また1つ増やしていくことになるだろう。坂元氏がしたため、同チームによって作られ、日本での初放送から長い月日を経ているが、同シリーズの快進撃はまだまだ続きそうだ。
長谷川朋子
テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。