本作は、映画『万引き家族』などで知られる是枝裕和監督も企画に関わっている。いわゆる是枝組(プロデューサー集団「分福」)の作品に参加することも、志尊にとって初の経験になった。
「是枝監督が信頼を寄せていらっしゃる北原栄治監督と広瀬奈々子監督、カメラマンの山崎裕さんの側に見守る形で、現場にもいらしてくれました。日本でエランドール賞の授賞式でお会いした際には『がんばって編集しているから、楽しみにしてくださいね』と言葉をかけていただきました。是枝監督作品は全て拝見していますが、若手の俳優の起用はそう多くはありません。同じ事務所の中では、山田裕貴さんぐらいでしょうか。こういう形であれ、ご一緒させてもらい、嗅覚の鋭い皆さんとお仕事させてもらったのは、大変刺激になりました。全てが良い経験でした」。
■カンヌは夢を描くことができる場所
志尊にとって初めて尽くしはまだ続く。世界的に有名なカンヌ映画祭と同じ会場で行われているカンヌシリーズは、ピンク色のカーペットが敷かれたレッドカーペットならぬ「ピンクカーペット」を歩くイベントが最も華やかな場面だ。ピンクカーペット前に到着した志尊は、現地のファンからサインやセルフィーを求められ、フォトセッションにも臨み、海外のテレビからの取材には流暢な英語で応じていた。こうした新たな体験によって、次なる目標も見えてきたようだ。
「カンヌは夢を描くことができる場所。世界中にいる何万人もの役者人口のなかで、カンヌのカーペットを歩くことができるのは、大変貴重なもの。そこに立てることができたのは財産になっていきます。もっともっと、という欲も出てきています。各国の祭典にお邪魔したい気持ちが芽生えてきました。英語ももっと学ぼうと思いました。あまり大きいことを言うのは好きなほうではありませんが、世界の人にも届けることへの可能性を見出せることができました。再びカンヌに来たい。次回は弾丸ではなく、2泊3日で来れたらいいんですけどね」。
授賞式は、10日(現地時間)に開催され、そこで『潤一』を含む10個のノミネート作品の中から、作品賞、脚本賞、音楽賞、特別賞を発表。8日から始まった番組見本市では世界にも売り出される。
『潤一』の上映後には「フランスでぜひ放送してほしい」という声を早くも聞いた。昨年、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した是枝監督が企画参加する作品であることからも注目度は高い。まもなく帰国予定の志尊は、授賞式に出席できないが、「朗報を日本で祈っています」と、期待を寄せている。
長谷川朋子
テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。