泥臭くてもいいから納得できることをやりたい
――でもさ、助監督なんて体力的にも肉体的にも相当しんどい仕事でしょ? しかも毎日怒られまくりだし。それなのにプライベートで映画作ったり舞台演出やったり、よくやるよね。しんどくないの?
これは昔からだけど、"楽"と"しんどい"の二択を迫られたら、いつも率先して"しんどい"を選ぶようにしてるんだよね。今回、自分の映画撮影のときだって、終盤はみんな寝てないしつらいわけ。でも、必要だと感じたらワンカットにめちゃくちゃ時間をかける。そりゃ「ま、いっか」って諦めれば"楽"だけど、妥協が一番の悪だと思ってるから、とことんやりたい。おれとしては、全然カッコよく決められなくてもよくて、それより泥臭くてもいいから納得できることをやりたい。
――それに役者やスタッフもついてきてくれる?
いや、逆にずーっとそうやってきたから、みんながついてきてくれるんじゃない? 本気で一緒にやろうと思ってくれてる人たちには、そういう泥臭さっていうのはちゃんと響くもんなんだよね。渡辺いっけいさんも、あんな過激な役をお願いしたのに文句ひとつ言わずに演じてくれたし、佐藤隆太さんだって超脇役でほんのちょっとしかシーンがないのにわざわざ遠山郷まで来てくれたし。「おい! もっと撮れよ!」って文句言いながら帰っていったけど(笑)。スタッフたちだってそう。
――いい人たちに恵まれてよかったな。
「なんで頑張れるの?」ってよく聞かれるんだけど、それは「仲間」に尽きると思うよ。おれはワンマンなタイプの監督じゃなくて、一緒にやりたいんだよね。現場でもおれがうにゃうにゃ悩んでたら、周りの人たちが「しょうがねぇな、アイツ助けてやるか」みたいにみんなが手を差し伸べてくれる。同じように役者が演技に悩んでたら、おれも一緒になって悩む。きっとどんな仕事だって、その方が楽しいでしょ? みんなで一緒にやったほうが。そうやって出来上がったときの喜びは凄まじいし、だからしんどくたってまた頑張ってみるかってなるんだよね。
あと、おれはそんな風に色んな人に助けてもらっていっぱい借りをつくってきたから、これからも作品を作り続けていくことが責任だと思ってる。もちろん自分のやりがいもあるけど、やっぱり恩返ししたいって気持ちも強いからさ。
――じゃあ最後に、これから大勢の人に『いつくしみふかき』をどんな風に観てほしいか聞かせてください。
作品は、本当にダメな父親と息子の物語なんですけど、おれ自身も親が離婚していて父親とは離れて暮らしていたので、そんな色んな想いも込めて作った映画です。人間関係って、白か黒かでは言い表せない部分にこそリアルがあると思っています。作品ではそういう複雑な心情の表現にこだわりました。もちろん大勢の方に観ていただきたいのですが、特に父親や子ども、家族との関係に色々と想うことがある方には、この映画を通じて何か考えるきっかけにしてもらえれば嬉しいですね。
なぜ、大山は人の心を動かせるのか
「努力していれば、いつか認められる」「勝ち負けは関係ない」といった言葉をよく耳にするが、それが働くうえで常に正しいとは思わない。ただ、長い付き合いの中で大山が諦めたところを一度も見たことがない。いつだって、転びまくって泥だらけになりながらもしがみついていく。それによって成功を掴めるか否かはわからないが、そんな姿は周囲の人たちの心を動かすことは確かだろう。
事実、彼を取り巻く役者もスタッフも、みんな「大山のためなら!」という"曖昧"な動機だけを頼りに彼のもとへ集まってくる。それは、いつも泥臭く突き進む彼と一緒にいると「何か面白いことが起きるんじゃないか」と期待してしまうから。そして、実際にいつも面白いことが起きてしまうのだ。そうして、どんどん取り巻く人たちが増えてゆく。
かれこれ20年以上の付き合いになる僕は、これが"曖昧"ではないことをずっと知っていた。ガキの頃もオッサンになった今も、いつだって彼から多大な刺激をもらってきたから。きっと、これから劇場で彼の作品を観る大勢の人たちも気づくに違いない。「この監督、めっちゃ面白い」ってことに。
●Informaion
『いつくしみふかき』
息子(進一)が産声をあげたその日、父(広志)はあろうことか窃盗を働き、村から追い出されてしまう。30年の時が経ち、進一は母に依存し一人では何も出来ない男になってしまっていた。そんなある日、村で連続空き巣事件が発生。村の厄介者だった進一は父同様に村を追い出され……。
スタッフ:監督/大山晃一郎、脚本/安本文哉・大山晃一郎
キャスト:渡辺いっけい、遠山雄、金田明夫、榎本桜ほか
大山晃一郎
18歳の頃に大阪芸術大学を中退して上京、フリーの助監督に。初の長編監督作品『いつくしみふかき』のほか、劇団チキンハート、大山劇団の作・演出家として演劇公演も行っている。助監督として映画『沈まぬ太陽』『溺れるナイフ』、テレビドラマ『ROOKIES』『刑事7人』『BG』など数多くの商業作品に携わる。主な受賞歴は、2011年度ショートショートフィルムフェスティバルのNEOJAPAN部門に選出(『ほるもん』)、2019年度ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ゆうばりファンタランド大賞作品賞(『いつくしみふかき』)、2019年度日本国際観光映像祭旅ムービー部門ノミネート(「遠山GO! 夏編」)。