■自分の命の責任は自分
教育者として畠山氏は、多くの子どもたちに、最終的に自分の命を守るのは自分の責任だと伝えていると言う。たったひとつの川を挟んだ先で、大人の指示に従ったにも関わらず多くの子どもたちの命が失われてしまったからこそ、「自分の命を守ることを、親や先生、友達のせいにはできない。何かあった場合自分が一番正しいと思う方法があれば、それに従うことが自分の命に責任を持つということになる」と話す。
とても厳しく重みのある言葉をあえて子どもたちに向けることで、一人ひとりにきちんとした防災意識と、命への責任を意識させている。その意識が根づくことが、結果的に家族全員の命を守ることにも繋がると言う。
畠山氏は「子どもを迎えに行って亡くなった人もいる。すぐに逃げれば助かった命があった。たとえ家族であっても自分の命を守るためには逃げる。普段家族で話し合って、家庭のハザードマップや約束事を作ることが大切」だと訴える。
震災直後、被災者の1人から携帯の電波が入るのに、1週間かかったという話を聞いたことを思い出した。ネット社会の現代だが、震災が起こった時に携帯が使えるとは限らない。携帯も絶対のツールにはなり得ないということだ。だからこそ、畠山氏の防災の心得には、今こそ一人ひとりが向き合う必要がある。
思えば、普段何気なく生活する中で、自分にとって最良の避難所や避難経路を知っている人がどれだけいるだろうか? 正しい防災知識を持っている人はどれほどいるのだろうか? いざとなったら携帯頼みになりがちな現代で、畠山氏の言葉に、自身の避難への意識がどれだけ薄いかが痛感させられた。
■3.11だけが特別ではない
震災から8年。畠山氏は「3月11日だけにニュースが集中して、その日1日だけのお祭りみたいになってしまっているのは、その日だけお祈りしとけばいいのかなっていうふうに思ってしまうこともある」とポツリと本音を漏らした。
その上で「でも祈らないより祈ってもらった方が良い。被災地に思いを馳せるっていうのは、たとえ年に1回しかなくても何もしないよりありがたい。『忘れてほしくない』っていう気持ちは被災者の中である。けど、わざわざ暗い話に付き合ってくれっていう気持ちはない。人それぞれだけど前向きに生きるしかないっていう人もたくさんいる。でも今現在、困っている人がいるということも心に留めておいてほしい」。
震災後、畠山氏には2人の可愛い孫娘が誕生した。語り部として多くの人に震災の悲惨さ、防災の重要性を伝えてきたが、「機会があれば伝えていく必要がある」と次の世代にバトンは繋がっていく。
震災から今日で8年。ふと復興を応援するために制作されたチャリティーソング「花は咲く」のとある歌詞が頭をよぎった。
「いつか恋する君のために」
畠山氏からのバトンを、私たちも大切に受け取りながら、静かに祈りを捧げようと思う。