2019年3月11日、今日で「東日本大震災」から8年の時が経つ。もう8年か? まだ8年か? 「復興」という言葉は、少しずつだが確実に「風化」という言葉の色が濃くなってきている。「平成最後」となった追悼の日を迎えた被災地だが、“今日だけ”世間の関心が集まることになってほしくない、同じ悲劇を繰り返してほしくないと震災を伝え続ける人がいる。

■生かされた命だからこそ伝えていく

  • 宮城県石巻市在住の畠山卓也氏 震災の語り部として活動を行っている(写真:マイナビニュース)

    宮城県石巻市在住の畠山卓也氏(65) 震災の語り部として活動を行っている

宮城県石巻市、津波による最悪の被害と言われた児童74名が亡くなった『石巻市立大川小学校』。震災当時、その川向かいにある『石巻市立北上中学校』で、校長を務めていた畠山卓也氏(65)は、震災後「語り部」として、防災の大切さを伝える為に全国各地を回った。

「自分がここ(大川小学校)にいたら、同じ運命だった」と話す畠山氏。「生かされた命だからこそ、震災を伝えていこうと決めたんです」と、現在も毎日欠かさずに震災関連のニュースをチェックし、作成した自前の資料を手に、「命の大切さ」、「震災への備えの重要性」を伝えている。

畠山氏は震災当時、校長を務める北上中学校の体育館が避難所となったため、自身も被災者でありながら、付きっきりで支援活動に尽力。校内に建てられた仮設住宅で、多くのボランティアと協力しながら住民に寄り添い続けた。

  • 石巻市は、至る所に石ノ森章太郎作品が展示してある漫画の町だ

    石巻市は、至る所に石ノ森章太郎作品が展示してある漫画の町だ

2年の活動を経て定年退職と共に、ボランティアの縁で繋がった、埼玉県の『浦和学院高等学校』に理科講師として招かれた。還暦を過ぎて初めての単身赴任をする傍ら、「石巻交流センター特任センター長」として、震災の教訓を伝える為に全国を回った。現在は石巻市内に、震災で倒壊した自宅と同じ場所に新築し、妻と2人暮らしをしながら、「語り部」の活動を続けている。

■「地震の国」だからこそ伝え続ける

  • 石巻市新門脇地区に設置されている石碑

    石巻市新門脇地区に設置されている震災を伝える石碑

震災から8年が経ち、畠山氏が語り部を続けるのは、「亡くなった人の分の気持ちになって、同じような悲しい人たちを増やしてはならない。震災を経験した者として少なくとも防災については、地震の国にいる以上は伝えていきたい。それが亡くなった人への供養になると信じている」。

  • 日和山からの景色 震災当時多くの人がこの高台に避難したきた

    日和山からの景色。震災当時多くの人がこの高台に避難したきた

そんな想いとは逆行するかのように、畠山氏は震災について話す機会が徐々に減ってきていると言う。「忘れることも良いことなのかも知れないけど」と前置きした上で、「あえて忘れないでいるということも必要なんじゃないかなと思う。平成っていうのは災害が多かった。忘れてはいけないのは、平成が終わっても震災が今後なくなることはない。むしろ多くなる可能性だってある」と警鐘を鳴らす。

確かに平成を振り返るだけでも、「北海道南西沖地震」(1993、平成5年)、「阪神・淡路大震災」(1995、平成7年)、「新潟県中越地震」(2004、平成16年)、「新潟県中越沖地震」(2007、平成19年)、「熊本地震」(2016、平成28年)、「北海道胆振東部地震」(2018、平成30年)など、日本のどこにいても地震の脅威は対岸の火事ではない。

■安全の“絶対”はない。想定外を想定する

震災直後からボランティアを通して畠山氏と交流がある筆者だが、ある言葉が今でも深く印象に残っている。

  • 「石巻市立門脇小学校」 震災遺構として部分的な保存が図られるという

    「石巻市立門脇小学校」。震災遺構として部分的な保存が図られるという

「大人が間違っていると思ったら、突き飛ばしてでも生き抜きなさい!」

この言葉はただ自分を信じろということではなく、正しい防災知識を身につけて、万が一のことがあった場合、命を守るための行動をしてほしい。未来を作る人たちが死んではいけないという想いが込められている。

その言葉の背景には、畠山氏が震災後に学んだ「津波てんでんこ」という言葉がある。これは三陸地方では昔から「津波起きたら命てんでんこだ」と伝えられてきた言葉で「津波が来たら、取る物も取り敢えず、肉親にも構わずに、各自てんでんばらばらに一人で高台へと逃げろ」という意味だそうだ。

この教訓に基づき、岩手県釜石市内の小中学校では、全児童・生徒計約3,000人が即座に避難。生存率99.8%の「釜石の奇跡」と呼ばれている。

畠山氏は「万人に共通する防災マニュアルはないと思う。もちろん防災の基本的な知識が持つことは必要だが、必ずしもその土地に合っているかとは限らない。その土地特有の“災害の種”を知っておくことが重要。自然に関しては、私たちは神様ではないので絶対に安心とは言えない。だからこそ“想定外を想定”していくことがとても大切だと思う。そのためにも大げさに逃げる、大げさに備えることが防災の心構えとして大切」。

  • 「石巻市立大川小学校」74名の児童が亡くなり今を多くの人が献花に訪れる

    「石巻市立大川小学校」。74名の児童が亡くなり今も多くの人が献花に訪れる