――ご自身の経験といえば、お2人ともバラエティ番組のスタッフ出身という共通項がありますが、その経験がドラマ制作に生きている部分はありますか?
小田:ドラマに入ってAP(アシスタントプロデューサー)として1年くらい修業したときに、「ドラマの人は慎重だな」と思いました。1クール3カ月をやり抜かなきゃいけないというところで、最初に決めたルール通りにやるのは当たり前っちゃ当たり前なんですよ。でも、『家売るオンナ』で、監督が普通のドラマよりテンションを上げたドラマにしようという話になって「三軒家万智(北川景子)が『GO!』というセリフを言うときに風を当ててみたらどうか」ってアイデアが出たんですけど、「まぁやってみてスベったら2話からやめればいいや」って軽く考えられたのはバラエティ的なノリで育ったからかもしれません。バラエティってそういう柔軟さがあるじゃないですか。
貴島:確かに、言われてみれば私も「なんか分かんないけど、とりあえずやってみちゃう…?」ということがすごく多いかもしれないです。現場でスタッフやキャストに「この小ネタやってみてもいいですかね?」と言われて、“うーん怒られるかな”と思っても、“まぁ一旦やってみて、謝ればいいか”という考え方というかスピード感みたいなものは、AD時代に培われたものかもしれないです。よく「特攻隊みたいなところがあるよね」と言われます(笑)
――「やってみなはれ」的な精神ですね。
小田:私も「やっちゃいましょう!」っていうのが口癖。面倒な案件があるときに、頭硬くしてると「今までやったことないから…」って消極的になってしまいがちだけど、勢いで「やっちゃいましょう!」って言っちゃう。一時期それがスタッフの間で流行語みたいになってました(笑)
貴島:あぁ、すごく分かります! 『オトナ高校』と『おっさんずラブ』は監督(瑠東東一郎氏)もバラエティ出身の方で、それで気が合って一緒にやっている部分も大きいのですが、バラエティって「その場で起こったことを逃すな」という文化があるじゃないですか。“アドリブが良い”という意味とはまた違うんですが、その場で偶然起こった現象を「絶対撮り逃がさないで、できるだけ生かそう」という空気感を監督が作ってくださっています。
――現場でも柔軟に対応するという部分、小田さんはどうですか?
小田:ともさかりえさん主演の深夜の単発ドラマ『ハニーワイフの憂鬱』で初めてドラマの企画演出をしたとき、撮影中にともさかさんのお芝居を見ていていいなと思うシーンがあって、そのシーンを伸ばしたいと思って、「このシーンを伸ばす代わりに、この後に撮るシーンはカットにしましょう」と言ったら、スタッフから「こっちはそれに向けて準備してきたのに…」って驚かれたんですよ。でも、バラエティって撮れ高が良かったらロケ中にネタとかロケ場所とか結構やめちゃったりするんですよね。
貴島:あぁ、そうですね。
――そのバラエティの文化を、ドラマの現場に取り入れてるんですね。
小田:そうですね。でも怒られちゃいますから、もちろんドラマの良いところは従いますけど(笑)
貴島:ちょっと聞いてみたいのですが、ネタはどうやって決めているんですか? 例えば、『家売るオンナの逆襲』の1話をYouTuberネタにしようと思いつくのは。
小田:リサーチャーさんに、現代日本の抱える社会問題と不動産に関連する記事をバーっとあげてもらって、それらをかけ合わせたりして思いついたアイデアを元に物語を作っています。
貴島:完全にバラエティの手法ですね!
小田:そうなんです。やってることはバラエティ番組を作っていたときから何も変わってなくて、「こんなのが流行ってるというのがリサーチャーさんから上がってきたんです」とプレゼンする相手が、総合演出から(脚本の)大石(静)先生に変わっただけ(笑)
■強いと思ったネタはどんどん前倒し
貴島:そう言えば、台本の作り方も見切り発車だなぁとよく自分で思います(笑)。バラエティって視聴者の方を「ビックリさせたい」という気持ちが根幹にあるじゃないですか。驚かせておいてCMに入るとか、そういう意識がすごいあるので、『おっさんずラブ』でも『私のおじさん』でも、ストーリーを考えるときは、必ずラストで“ビックリ”させたいなぁ…というところからスタートしがちです。だから台本を配るとキャストに「ちょっと! 続きはどうなるんですか?」って言われて「今考えてるの! むしろ案をくれ!」ってなったり(笑)。いつも自分で自分の首を絞めてるみたいな感覚があるんですけど、それは、いつも追い詰められてるバラエティの文化なのかもしれないです。
小田:そう言われてみると、私も10話までちゃんとネタをストックしておかなきゃいけないのに、ここにあのネタもこのネタも…ってなって。それで、大石先生に「そんなに入れてるけど、まだネタは残ってるのよね?」って言われて、「いや、もう空っぽです」って(笑)
貴島:あ~一緒です一緒です! 「ここで全部やっちゃって大丈夫なんですか?」って言われるんですけど、その後のネタが無くなっちゃったら無くなっちゃったできっと考えつくから、「もうそれで1回撮影入るよ!」みたいな(笑)
小田:バラエティ番組って今後やろうと思ってるネタがあっても、その前に視聴率が悪かったら、番組が終わっちゃう可能性もあるわけじゃないですか。ちょっとでも強いと思うネタはどんどん出していこうというのは、バラエティっぽい発想かもしれない。でも、ドラマにおいても出し惜しみしないっていうのは大事だと思うんですよね。
――小田さんは『人生が変わる1分間の深イイ話』の密着で「第2話が大事」というお話をされていましたよね。その考えから、良いネタを第2話に寄せるという意識もあるんですか?
小田:そうですね。第1話はみんな見てくれるけど、実は第2話を見たときに「このドラマはずっと面白いドラマなんだ」って継続して見るかを決める人が多いと思うんですよ。前回の『家売るオンナ』の第2話は、「引きこもり中年に引きこもりの城を売る」っていう内容なんですけど、実は一番初めに思いついたネタ。大石先生と私の間では「『家売るオンナ』ってこういうドラマ」と番組の指針になったお話です。それでも1話は多くの人が様子見で来るから、より受け入れやすいネタにしようと話して、2話に持っていきました。
――貴島さんは「第2話」にそういう意識はありますか?
貴島:いや、今話を聞いて「そうか…」と(笑)。私は全部全力投球ですね。それは、テレビ朝日の「ナイトドラマ」(金・土曜23:15~)という枠がまだまだ人々に浸透していないんじゃないか、という意識があるからで。最初から多くの人が見に来てくれる確証はない、1話で面白いと思ってもらえなかったら終わってしまう…という気持ちがあるからだと思います。だから全部前倒しと言う感じで、いつも5話くらいまで来ると、「ああ、この後お話どうしよう!」って現場でブツブツ言ってます(笑)
※後編は、2月8日掲載予定。