『家売るオンナ』で鮮烈な連ドラデビューを果たし、現在続編の『家売るオンナの逆襲』(毎週水曜22:00~)を手がける日本テレビの小田玲奈プロデューサー。『おっさんずラブ』で旋風を巻き起こし、現在放送中の『私のおじさん~WATAOJI~』(毎週金曜23:15~ ※一部地域除く)を手がけるテレビ朝日の貴島彩理プロデューサー。今、ドラマ界で最も注目を集める2人の女性プロデューサーが、初対面を果たした。

ともにバラエティ制作出身で、エランドール賞のプロデューサー奨励賞、『新春テレビ放談』(NHK)出演といった共通点を持つ2人が、企画の着想、制作秘話、SNS戦略、続編の苦悩などを語り尽くす対談インタビュー。前編では、バラエティ時代に培った発想をドラマの制作現場で生かしていることについて、大いに共感し合った――。

※後編は、こちら

  • テレビ朝日の貴島彩理プロデューサー、日本テレビの小田玲奈プロデューサー

    テレビ朝日の貴島彩理プロデューサー(左)と日本テレビの小田玲奈プロデューサー

■実は影響し合っていた!

――まずはお互いの作品の印象から伺わせてください。

小田:『おっさんずラブ』は、あのクールで一番楽しく見ていました! 今『家売るオンナの逆襲』では白洲美加(イモトアヤコ)目線の「白洲美加の世界」というインスタをやってるんですけど、それは『おっさんずラブ』の「武蔵の部屋」を研究して立ち上げたものです(笑)

貴島:うれしい! ありがとうございます。

小田:私も“男と女”以外の恋愛モノにここ数年ずっと興味があったんですけど、テレビでどこまでやれるんだろうと思っていて。『おっさんずラブ』は突破口になったと思います。『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』でも端っこの方でそういう話をやりましたけど、ど真ん中でドーンとやったのが本当にすごい! 映画化も決まってコンテンツが成長していくという過程も面白いなと思って拝見しています。

――『家売るオンナの逆襲』の第3話はLGBTをテーマにした話でしたし、今回は足立(千葉雄大)と留守堂(松田翔太)のラブ的要素を全体の縦軸の1つに描いていますよね。

小田:『家売るオンナの逆襲』の企画書を出したのが一昨年の年末で、既にいるキャラクターをどうやったら面白く動かせるか考えていたときに、エリートの足立が留守堂の人間的な魅力に性別を超えて感情を揺さぶられるというのを思いつきました。世間に受け入れられるか心配していたんですが、『おっさんずラブ』の勢いがあったから、視聴者もすんなり受け入れてくれて、本当にありがたいです。

――『おっさんずラブ』が背中を押してくれたような。

小田:そんな感じがありますね。

  • 『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)
    「天空不動産」に勤務する春田創一(田中圭)、黒澤武蔵(吉田鋼太郎)、牧凌太(林遣都)がピュアな恋愛を繰り広げるドラマ。2018年4月期に連ドラが放送され、19年夏に続編となる劇場版が公開予定。 (C)テレビ朝日

――貴島さんは、小田さんの作品の印象についていかがですか?

貴島:私は『家売るオンナ』や『校閲ガール』が、いち視聴者として本当に大好きで! あとは、小田さんがバラエティ出身のドラマプロデューサーだという記事を読んだことがあって、他局ではありますが、勝手に後ろを追いかけている気持ちがありました…! 『校閲ガール』は、途中で「ファッションチェック」のコーナーが入っているのですが、ああいう仕掛けは他のドラマで見たことがなかったですし、バラエティを経験されたからこそのアイデアなのかな…と思うとすごく学ぶことも多くて。『家売るオンナの逆襲』も、今ものすごくハマっていて、自分も『おっさんずラブ』で初めて“続編”というものをやることになったのですが、視聴者の期待に応える“続きのお話”を作る…ってどれだけ大変なんだろうと想像する中で、こんなにも面白い作品を作ることができるというのは、本当に尊敬しかありません。そんなわけで今日は「あの小田さんに会えるんだ…!」と、朝から緊張してました!(笑)

――『おっさんずラブ』も『家売るオンナ』も、どちらも主人公が不動産会社の社員ですよね。

貴島:不動産会社を舞台に決めたとき、不動産業界の事象が分からないのでいろいろ調べてみたのですが、なかなか難しくて…。それで結局私がやったのは、『家売るオンナ』を頭からガッツリ見直すっていう(笑)。レンタルビデオで全部借りて、脚本家にも渡したくらいで、すごく勉強させていただきました。

小田:私も『おっさんずラブ』が不動産を舞台にしているから、『家売るオンナ』の続編に向けて何かヒントになるネタもあるかもしれないと思って、そういう目線でも注目していました。勝手に(笑)

  • 『家売るオンナ』(日本テレビ系)
    「テーコー不動産」に勤務する天才的不動産屋・三軒家万智(北川景子)が、顧客の問題を解決しながら華麗に家を売りまくるドラマ。2016年7月期に第1シーズンが放送され、現在第2シーズンの『家売るオンナの逆襲』(毎週水曜22:00~)が放送中。 (C)NTV

■企画の着想は経験したことから

――実はお互いが影響し合っていたんですね。ドラマの企画はどのように着想されるんですか?

貴島:自分が人生で経験したことの中から、企画が生まれている気がします。よく「突飛な企画だね」と言われるんですけど、私としては結構王道な企画を毎回立てているつもりで…。『オトナ高校』(※1)も「大人になるってどういうことなんだろう」という超普通の疑問から作ってみたドラマだったり。

(※1)…30歳のエリート童貞・荒川英人(三浦春馬)ら、異性との性経験がない30歳以上の男女たちが「オトナ高校」に入学させられて繰り広げる学園ドラマ。

小田:『オトナ高校』も貴島さんなんですね! 見てましたけど、十分突飛な企画ですよ! やばいドラマが始まったなと思いましたもん(笑)。ホメ言葉ですよ。

貴島:本当に、キャストの皆さんがよく引き受けてくださったなぁと…(笑)。でも、うちは日テレさんみたいに22時台にドラマ枠がなくて。“23時台にやるべきドラマ”を考えたとき、学園ドラマをやりたいけれど何か仕掛けが欲しいな…と思って『オトナ高校』になったり、恋愛ドラマをやろうと思って『おっさんずラブ』になったり、お仕事ドラマをやろうと思った結果、妖精のおじさんが出てくる『私のおじさん~WATAOJI~』になったりしてるんだと思います。

小田:そういう“縛り”が突飛な企画を生んでるんですね。面白い!

――小田さんも、以前インタビューさせていただいた際に、地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』(※2)はご自身の体験から企画したと伺いました。

小田:そうそう、結局自分が経験してることじゃないと、脚本家さんと話をしても追いつかないんです。貴島さんの『私のおじさん』はバラエティのADだった経験を生かしてるんだと思いますけど、私がやった『校閲ガール』(※2)も、自分がドラマ部に行きたかったのになかなか異動させてもらえなくて、でもバラエティ番組を作っているときも夢中になれたし、楽しかった…という経験があったからこそ作れたドラマです。

(※2)…ファッション誌の編集者を目指して出版社に入社したものの、原稿ミスを調べて直すという地味な「校閲部」に配属された河野悦子(石原さとみ)が奮闘するドラマ。