今日、企業における課題の1つであるデジタルトランスフォーメーション。SAPジャパンは、"守り"のERP、"攻め"のソリューション群「SAP Leonardo」やフロント業務の「C/4 HANA」によって、デジタルトランスフォーメーションの実現を支援する。

「企業のデジタル変革を支える上でやるべきことが見えてきた」と話すのは、SAPジャパンを代表取締役社長として率いる福田譲氏だ。キーワードは、フレームワーク化、そして多様な企業が集うことだという。

  • SAPジャパン 代表取締役社長 福田譲氏

--2018年は「S/4 HANA」の導入顧客が8900社を超えるなど好調であり、AIを含む「SAP Leonardo」、それにRPA参入の発表もあった。一年を振り返るとどんな年だったか?--

福田氏: SAPジャパンとしても、グローバルのSAPとしてみても、いい一年だった。日本にとっては、今後数年間で何をやるべきかが明確になった年だ。

まず1点は、企業は数年に1度、方向を考えてそれが定まったらその後数年間は無我夢中で進むものだが、今年は方向が定まり、前進が始まった年といえる。

次に、今年は質と量の両面で、SAPにおける日本の存在感、リーダーシップが高まった。日本人が持つ洞察力が形になることで、社内で日本での発想、考え方、取り組みに対する注目度が上がり、影響力も大きくなってきた。今年は「SAPジャパンの代表取締役社長に就任して5年目を迎えるが、質と量の両面から見てこれまでで一番良い状態だ。

--日本のプレゼンスが上がった理由は?--

福田氏: 日本のお客さまとの取り組みが評価されている。その代表例が、小松製作所、NTTドコモ、オプティムの3社と共同出資して起こしたランドログだ。

ランドログは、IoTにより建設生産プロセスを変革するというプロジェクトを手掛けているが、すでに5000カ所で展開するなど本格的になってきた。数年後に建設作業員は数十万人足りなくなると言われており、政府もランドログのようなプロジェクトを応援している。

ランドログは非常にユニークなプロジェクトで、ソフトウェアだけでもハードウェアだけでもないし、特定の会社が運営するものでもない。ランドログは4社それぞれ(小松、NTTドコモ、オプティム、SAP)にとって新規事業であり、全員が同じ方向を向いて同じことを考え、オープンに協調しながらやることが成長のカギとなっている。

出資した4社に加え、40社強のパートナーがランドログに参加しているが、その1社にトラスコ中山がある。同社は機械工具などの工場用副資材を販売する企業で、われわれとデザインシンキングを通じて「置き工具」という新しいビジネスモデルを考えた。

必要な時、すぐに工具が欲しいというのが現場のニーズであり、トラスコ中山は全国に広がる物流センターから最短で顧客に届けるという形でそれに応えてきた。だが、「究極の短納期とはお客さまの手元に欲しいものがあることではないか」という案が出て、顧客の在庫ではなくトラスコ中山の資産として工場や建設現場に「置き工具」をすることになった。

トラスコ中山はもともと当社のお客さまで、「S/4 HANA」に移行している。今回の「置き工具」のように、新しいビジネスモデルを展開する時に、S/4 HANAが威力を発揮する。

天気情報を組み合わせることで、「今日の午後に雨が降るとわかったら雨具が売れるかもしれない」「気温が高くなるなら塩飴を置いたほうがいいかもしれない」という予測ができるようになる。1万カ所以上の天気情報がAPIで公開されているが、それを活用して自動的に需給を調整しながら、明日の朝一に出発するトラックの積荷を変更するといったが可能になりつつある。

天気に応じて基幹システムを変えることができる――それがS/4 HANAのメリットだ。「さまざまなデータを結合してデータドリブンにビジネスを変えていく」などと言われているが、ERPを導入していても、バラバラのシステムを動かしてバッチ連携しているような場合は到底実現できない。

今や、社内をデジタル化して統合するのは当たり前。商品を即納できるようにリアルタイム性を高めたり、天気やマーケットのビッグデータを基幹システムに吸収したりといったことが可能なのか? 吸収できたとして、業務はちゃんと変わるのか?

このようなことを考えると、フロント領域でデザインシンキングを使いながら面白いアイデアを考えて試すのも重要だが、それ以上にバックエンドの基幹システムも重要だ。いざ事業部が新しいことにチャレンジしたいとなった時、あなたの会社のITはそれを受け止めることができるのか? そこも含めてお手伝いできるのがSAPだ。

--フロントの業務だけではなく、それを支えるバックエンドを整える必要があると理解している企業はどの程度いるのか? 理解を促進するためのSAPの取り組みは?--

福田氏: トラスコ中山はランドログに参加して他社とイノベーションを始め、SAP ERPのサポート期限となる2025年を待つことなくS/4 HANAに移行した。先頭を走っている典型的な企業の1社だ。経済産業省が「2025年の崖」(「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」)というレポートを出したが、デジタル化はチャンスでもありピンチでもある。最先端の企業は崖を明確に認識し、それを飛び越える準備を始め、行動に移している。

SAPの取り組みとしては、ランドログのような新規事業をデジタルでやりたい、周囲とイノベーションしたいという人たちが業界の垣根を超えて集う空間作りがある。2018年末に三菱地所とともに大手町に「TechLab」(仮称)というスペースをオープンさせた。

個別に新規事業やイノベーション、デジタル変革をやるという時代ではない。複数でやったほうが速いし、多様な意見が出てこないといいアイデアは浮かばない。さらには、いいアイデアが浮かんでも、1社でやれるという企業はどこにもない。そういう時代であり、企業のコラボレーションを活性化させることがデジタルトランス変革を進めるカギだと考えている。

SAPはそのようなコミュニティの運営を進めていく。イノベーション・スペースはその1つであり、オフィスだけでなく、デザインシンキングのエリアなども備える。われわれの強みは、どんなエリアでも受け止められるソフトウェア部品をそろえていること。その点では世界一だと自負している。その上で、全体をフレームワーク化することがわれわれの役割と考えている。コミュニティでプログラムを始めると、3カ月後には新規事業が生まれるようなフレームワークを提供したい。