――2016年に『エグゼイド』、2017年に『ビルド』と、対照的な2つの仮面ライダーを連続して製作してきた大森さんにうかがいたいのですが、仮面ライダーの企画を立て、実現させるまでにはどのようなご苦労があるのでしょうか?

平成仮面ライダーだけで20作になりますからね。初期のころは斬新な企画、アイデアがひらめいて、挑戦的な作品を作ることができましたが、今同じことをやったら二番煎じだと言われてしまいます。こんなアイデアを思い付いた、これは僕が最初だろうと思っていたら、もう数十年前に同じような内容の番組が存在したとか、よくあることなんですよ。そういう意味では初期の平成仮面ライダーはずいぶん野心的な作品が多かったですし、羨ましいなと思うこともあります。

企画は本当に試行錯誤しながら作っています。たとえば、前のシリーズがこうだったから、反省して今回はこのようにしてみようとか、そういうことの繰り返しですよ。近年の仮面ライダーはモチーフが奇抜なことが多いので、「今年はこれです」と発表された瞬間、まるで「出オチ」のような受け止められ方をしますよね(笑)。その「出オチ」が終わったら、あとは内容をどう詰めていくか、という部分に尽きます。内容についてはもう、前の反省点を改良して次に活かすという、試行錯誤の繰り返しとしかいえないです。

――『ビルド』では、脚本にそれまで仮面ライダーシリーズを手がけたことのない武藤将吾さんを迎えて作られていました。大人向けドラマで活躍されていた武藤さんの参入によって、どんなところが変化しましたか。

武藤さんがこれまで手がけられていた作品を見せていただいたとき、キャラクター同士のやりとりによって生み出される熱いドラマにひきつけられました。仮面ライダーはやっぱり、男の子が観て"燃える"ことが第一なところがありますので、そういうキャラとキャラとのぶつかりあいのドラマを期待して、発注させてもらいました。

加えて、長くやってきているシリーズなので、"初めて"このシリーズに取り組む方のパワーというのが、けっこう大事なんですよ。今回は、その「初めてパワー」の源が武藤さんでしたね。脚本の武藤さんが初めて仮面ライダーに取り組む一方で、監督はシリーズを長く手がけてきたベテランの田崎(竜太)さんに第1、2話をやっていただけて、バランスがとれた感じです。

――武藤さんの書かれた『ビルド』は、最初の数回でどんどんストーリーが進んでいって、キャラクターの立ち位置もめまぐるしく入れ替わるなど、スピーディーな展開がとても印象に残りました。変に"もったいつけない"というか、謎の部分がすぐ明かされたかと思うと、すかさず別の謎が入りこんで来るなど、あの展開の速さが観ていくうちに病みつきになる感じでした。大森さんが武藤さんと脚本を作っていく作業では、当初からあのラストの展開まで決めていたのでしょうか?

まず初めに全体の大きな構想を作り、それから1話ごとの脚本を作っていくわけなんですけれど、最初の考えどおりには絶対行きませんからね。毎回、必死で打ち合わせをしていました。武藤さんはプロット(脚本を執筆する前のあらすじ)を書かないんです。プロットを書いてしまうと、脚本を進めていくうちにプロットの矛盾に気づき、内容がプロットどおりに行かなくなり、無駄になってしまうんですよ。毎回の脚本を書く際には、僕と武藤さんとで軽く話し合って、それからは電話とかメールで細かいやりとりを行います。1日に多いときで10~20通くらいメールしていましたね。まるで恋人同士のような(笑)。

――スカイウォールによって分断された3つの都市(東都、北都、西都)で戦争が勃発し、仮面ライダーが都市を代表する戦士となって戦う中盤の展開には驚かされました。あえて「戦争」というテーマを選んだのにも、何か意味があるのでしょうか。

武藤さんが『ビルド』を手がけるにあたって、どのように仮面ライダーを描こうかと考えたとき、「人々に対して善かれと思っていたヒーローが、兵器として扱われる。社会的には善からぬものとして見られる」というアイデアがあったんです。まさに仮面ライダーという存在を描くために「戦争」を始めたところがあります。そうなるとお話のほうもかなり悲壮感が漂い、観ていて辛くなる視聴者の方もいたかもしれません。でも、なるべく各エピソードの終わりには辛いままではなく、何かしら戦兎たちに「負けないぞ!」「立ち上がるぞ!」という決意を持たせるよう努めていました。ですから、観終わって後味の悪いエピソードというのは、そんなにないはずです。

――キャラクターの立ち位置が変化する例としては、水上剣星さん演じる氷室幻徳が顕著ですね。

幻徳は当初、ファウストのリーダー・ナイトローグとして戦兎たちの脅威だったのが、失脚を経て仮面ライダーローグになり、やがて戦兎たちの仲間になりますね。仮面ライダーグリス/猿渡一海もそうなのですけれど、仲間になってしまうと戦兎、万丈と一緒に戦うだけになってしまいかねないので、武藤さんとそこをどうしていくか相談しました。

結果的に、だんだんとお話が殺伐としていく中で、少し番組を明るく見せるような役回りを2人にやってもらえるかもしれないということで、あのようになっていきました。でも幻徳については、もともと武藤さんの頭の中にコミカルな要素を持った男だという構想があったんです。「幻徳は私服がダサいんだ」と、初期のころから話していましたから(笑)。

ずっと制服を着ていた人物なので、仲間になって私服を見たとき初めてセンスがわかるという。ただ、幻徳の独特な私服のセンスがあそこまで派手な演出になったのは諸田(敏)監督のせいですけれどね。言葉で伝えずにTシャツに書かれた文字をアピールするという「文字T」ネタをやったら武藤さんが面白がって、その後の脚本にも文字Tの言葉がいろいろ書かれるようになりました。相乗効果で幻徳のギャグキャラ化が進んだというわけですね。

――2019年には東映Vシネクスト『仮面ライダークローズ』が控えています。こちらは冬映画『平成ジェネレーションズFOREVER』と異なり、テレビシリーズ最終回から直結する「続編」として作られているとうかがいました。平和を取り戻した新世界の戦兎と万丈が、いかにしてふたたび変身して戦うことになるのか、その物語が気になります。

僕としては、テレビシリーズでやりたいことをほとんど全部やっているんです。でももう一度、『ビルド』のキャラクターたちを見たいという声もわかりますし、自分自身もそう思います。最終回で戦兎と万丈が創り上げた新しい世界で、どんな出来事が起きるのかを見せるのなら、作る意味があると判断して、『クローズ』をやりましょうという話になりました。

――『クローズ』もすごく楽しみです。それでは最後に『仮面ライダービルド』という作品をふりかえって、一言ご感想をお願いします。

武藤さんが最初にやりたかった内容が、石ノ森章太郎先生の原作コミック版『仮面ライダー』に近かったので、僕ももう一度「仮面ライダー」についてじっくり見つめることができたという思いです。僕にとって3作目の「平成仮面ライダー」ということ、そして多忙な武藤さんのスケジュールをいただく機会に恵まれたことによって、『ビルド』という作品を作り上げることができました。

2018年は石ノ森先生の生誕80周年記念ということで、先生の"萬画家"生活についてのさまざまな番組を放送していましたが、それらを観させてもらうと「先生はこんな思いで作品を作っていたのか」というお気持ちがわかり、感慨深かったですね。第1作の『仮面ライダー』(1971年)と今とでは時代も違い、感覚も違うと思うのですが、ただ敵と戦って、戦って、倒して終わるだけではない、というのが『仮面ライダー』なんだなということを再確認できました。『仮面ライダービルド』については、石ノ森先生の『仮面ライダー』に真剣に向き合おうとして作ったことが、大きな出来事だったような気がします。

映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー 平成ジェネレーションズ FOREVER』は現在大ヒット公開中。なお、マイナビニュースでは平成仮面ライダー20作を記念した『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』大特集を展開している。

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