俳優・大泉洋主演の映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』が、12月28日より公開中だ。『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』(渡辺一史 著/文春文庫刊)を実写化した同作は、幼少期から難病にかかり、車イスで過ごした実在の人物・鹿野靖明(大泉洋)と、周囲のボランティアたち(高畑充希、三浦春馬)の姿を描く。一見わがままで自分勝手に見える鹿野だが、彼の生命力にあふれた姿が、周りの人間を動かしていく。
主演の大泉は、10kgの減量に加え、わざとコンタクトで視力を落としてメガネをかけるなど、徹底的な役作りを行なった。前田哲監督は、この作品をどうしても「メジャーでやりたかった」と語り、主演に大泉しか考えていなかったという。今回は前田監督に、作品への思いや大泉とのやりとりについて話を聞いた。
こんな夜中に電話かよ
――撮影を前に、大泉さんと何時間も電話をしたと聞きました。
今、大泉さんがそのことをギャグにして話していますよね(笑)。台本を1ページ目から、「ここのセリフどんな気持ちですかね」とか「ここは気にならない?」とか、ひとつひとつ話し合っていくんですよ。高畑や三浦くんとは、実際に会って向き合ってやりましたが、大泉さんは電話だったので映画よりも長くなってしまい、結果4時間半になってしまいました。
最初、大泉さんが「21時にかけます」と連絡いただいて、大泉さんもお忙しいので、結局23時から始めて、終わったら明け方でした。だから、「こんな夜中に電話かよ」って(笑)。
そのときのやり取りで変化があったところもあれば、撮影現場で変化していったところもあって。しっかりとした脚本という土台があるからこそ、もっとよくするために、アイデアを出し合うのが映画作りの醍醐味だと思うんです。芝居は現場での生のリアクションが根本だから、映画は絶えずセッションして、変化していくものだと思います。最終的に決めるのは監督の仕事なんだけど、大泉さんの現場でのアイデアもたくさん活かせました。
――実際に変化したところは?
三浦くんが演じる田中と、大泉さん演じる鹿野のシーンで、鹿野が、言葉を二度繰り返す場面があるんですね。「お前のこと、きらい……きらいだよ」って。それで田中が「2回も言わないでくださいよ」って笑うことで、2人の空気も変わったりするんだけど、あれは大泉さんのアイデアです。実際、呼吸器をつけていると息が続かなくて、ああいう言い回しになるし、言葉も強調されるし、意図が深まりました。
――確かに、そのシーンは印象に残りました。原作はノンフィクションですが、フィクションとして物語を作り出した経緯は?
最初から、「ラブ」の要素を入れることは決まっていました。そこで、脚本の橋本(裕志)さんとプロデューサーの石塚さんと3人で、人物設定について話し合って、鹿野のほかに、短大生のヒロインと、自分探しをしている男子大学生を出しましょうと。鹿野がよく恋をしてふられるということは原作にもあったので、「横恋慕しようとするのはどうだろうか」などとディスカッションしました。基本的には、3人の青春物語にしたいというのと、疑似家族を描くということ、親と子の関係も裏テーマとして持っていました。
――前田監督は、大泉さんとは2002年の『パコダテ人』という作品でご一緒されてますよね。
そうなんです。あれも、北海道ロケで、女子高生とサラリーマンにしっぽが生えてくるという話でした。しっぽが生えるサラリーマンを大泉さんに演じてもらいました。
――その頃はどんな印象でしたか?
北海道の大スターだとは知らなくて……撮影中に痛感しました。撮影現場を通りがかった人たちが、「洋ちゃんだ!」と集まってくるんです。その時の演技はもちろんのこと、役に対する取り組み方が素晴らしかった。この人は東京に必ず進出するな、どうして今まで出なかったのかなと不思議に思っていました。
大泉さん自身もトーク番組で言っていたけど、ある映画の撮影のときに、東京から北海道に大勢の俳優が来たら、部屋が足りなくて自分が従業員の部屋に移ることになり、悔しい思いをした、と。そのときに、本当の意味で認めてもらうためにも、やっぱり東京でやらないといけないんだ、と思ったそうです。そのとき撮影していたのが、実は僕の映画で。だから、今の大泉さんがあるのは僕のおかげなんですよ(笑)。鹿野のセリフにもあるでしょ、「俺のおかげだな」って(笑)。大泉さんに直接言ったら、わっはっはって笑ってましたけどね。