正社員とフリーランスのいいとこ取り!?

「MUGENUP」には、土日に動ける社員へ個別に仕事を依頼する「メイクアップ制度」という社内発注制度があり、営業時間内に終わらない業務については休日出勤という形で対応している。さらに、本業であるクリエイターとしてのスキルアップにつながるようなものであれば副業も認められているとのこと。

Mさんもイラストレーターとして個人の仕事を請け負うことがあるそうで、話を聞く限りではほとんどフリーランスのような働き方だ。しかし同社では、社員の特権とも言える福利厚生なども、一般企業並みのものが当然のごとく整備されている。

「有給休暇が取りにくいということも特にありません。仕事に滞りがなければ、上司やイラストレーターの方にいつ休むか報告して、システム上で申請するだけで休暇は取れます。私も有給休暇はけっこう使っていて、最近は京都観光に行ったりもしました」

勤怠管理や業務内容の管理は、社内システムの日報をはじめ、チャット上での日常的なコミュニケーションやミーティング、オンライン上での出勤・退勤のチェックなどで行われているという。部長クラスの上長と半年に1回行われる定期面談も、もちろんビデオ通話。目標設定やフィードバックなど、面談の内容は一般的な企業と特に異なる点はないようだ。

純粋にクリエイターとして業務に集中できる今の状況は、Mさんにとってこれ以上ない仕事環境のようだが、在宅勤務だからこその悩みもある模様。

「私はもともと外に出るタイプではなく、人と関わるのが得意じゃないこともあるんですが、学校や職場といった毎日通うような場がなくなったことで、知らない人との出会いは明らかに少なくなりました。体力が落ちてきた自覚もあり、一緒にジムに通おうと友達に相談するなど、逆に最近は意識的に外出するようにしています。ただ、その友達が私の知らない別の子も誘ってしまって、私の人見知りがまた発動しそうなんです。知らない人と会って話した日は、いつもより3時間長く寝ちゃうんですよね……」

実家暮らしということもあって、平日だけでなく土日も家から全く出ないこともあり「気づいたら2週間くらい外に出ていないなんてこともありました」と話す、筋金入りの在宅ワーカーMさん。悩みは尽きないとはいえ、フリーランスと正社員のいいとこ取りとも言える環境は、羨ましくさえある。

インタビューの締めくくりとして、Mさんは今の環境へ感謝するとともにこれからの展望について語ってくれた。

「そもそも地方では、イラストに関わる仕事に社員として携われること自体が難しいので、本当に私は恵まれているなと思います。仕事のモチベーションも高く保てていると思いますね。今はディレクション業務がメインなのですが、将来的にはイラストレーターとして1から自分で絵を描いていくような機会も増やしていけたらなと思ってます」

今回は極端な例として「一度も出社したことがない」という社員の方に登場していただいたが、話を聞けば聞くほど、その「働き方」はどこまでも合理的であるように感じられた。もちろん、前段階として制度づくりや環境の整備などが重要になることは言わずもがなである。しかし、「MUGENUP」は“創ることで生きる人を増やす”という経営理念のもと、クリエイターの可能性を「テレワーク」というアプローチで見事に拡大してみせたのだ。その波は、クリエイター業界のみならず、日本のさまざまな企業へと形を変えて伝播していくかもしれない。