ディケイド/士が旅する9つの世界は、オリジナルの『クウガ』から『キバ』という作品とは世界観や設定が微調整された「リ・イマジネーション」として描かれている。それぞれ約1年間かけて作り上げた平成仮面ライダーの物語と作品世界を、本作では前後編の2話分にて説明し、ドラマとして描かなければならない。そのため、過去作品の設定を大幅にアレンジし、出演者もリニューアルしていく方針が定められている。士の最初の旅を描いた第2、3話では「クウガの世界」で仮面ライダークウガに変身する小野寺ユウスケ(演:村井良大)が登場。グロンギによる世界滅亡の脅威をディケイドと共に食い止めたユウスケは、以降も士や夏海と行動を共にし、一緒に旅を続けていく頼もしい仲間となった。
「キバの世界」では人間とファンガイアの共存問題、「龍騎の世界」では仮面ライダー同士の戦いによって判決を決める仮面ライダー裁判制度、「ブレイドの世界」では大企業に属する仮面ライダーの出世争い、「ファイズの世界」ではスマートブレイン高校内に出没するオルフェノク事件、「アギトの世界」ではクウガの世界と似て異なる警察組織でのアンノウンとの戦い、「電王の世界」では時間の歪みを正すためのイマジン捜索、「カブトの世界」では宇宙生命体ワームを撲滅するため組織されたZECTの活動、「響鬼の世界」では3流派に分かれる音撃道門下の争い……と、士はそれぞれの世界で勃発する複雑な事件に関わりあう「通りすがりの仮面ライダー」となり、同時にそれぞれの仮面ライダーと心を通わせ、力を合わせて世界を破滅から救っている。
「アギトの世界」では芦河ショウイチ(演:山中聡)がG3~エクシードギルス~アギトと1人で3体分の仮面ライダーに変身(芦河ショウイチという名前も、葦原涼、氷川誠、津上翔一の3人から採っている)していたり、「響鬼の世界」では『仮面ライダー響鬼』(2005年)で実現しなかった「太鼓とトランペットとギターによる音撃セッション」を成し遂げつつ魔化魍を退治したりと、オリジナル作品の世界観を活かした巧みな設定の「アレンジ具合」に、新鮮な驚きを覚えたファンは多かった。エピソードによって、グロンギのン・ガミオ・ゼダやミラーワールドの仮面ライダー「仮面ライダーアビス」といったように、『ディケイド』独自に作られた新怪人、新キャラクターが多数登場しているのも見逃せない。
士の旅を阻むものとして、ディケイドと同じくいくつもの世界を飛び越える能力を備えている謎の人物・鳴滝(演:奥田達士)が第2話から登場。鳴滝はそれぞれの世界の仮面ライダーに、ディケイドが"世界の破壊者"であると吹き込んだ張本人である。理由は不明だがディケイドを敵視して、巨大な魔化魍や邪悪な仮面ライダー(キックホッパーやパンチホッパーなど)を送りこんでは彼の命を狙っている。ディケイド抹殺に失敗した際に鳴滝が叫ぶ「おのれディケイドーッ!」という特徴的なセリフが、ファンの間で評判となった。また、鳴滝と通じているミステリアスなコウモリ型モンスター・キバーラ(声:沢城みゆき)が本作のレギュラーキャラクターとして、士や夏海、ユウスケと行動を共にしている。
また、第9話よりさまざまな世界の"お宝"を狙うために時空を移動する仮面ライダーディエンド/海東大樹(演:戸谷公人)がレギュラー入りする。ディケイドが複数の仮面ライダーに変身(カメンライド)するのに対して、ディエンドはライダーカードを使って仮面ライダーのコピーを作り出し、自分の戦力にすることができる。士の過去を知る人物でもあるらしいのだが、お宝の確保にしか興味のない彼は何かと士の邪魔をすることが多い。
どんな世界に飛び込んでいっても、それぞれの世界のことを「だいたいわかった」とすぐ把握して、9つの世界でそれぞれの危機を救ってきた士だが、それでも彼の旅が終わることはなかった。第20、21話ではダークな仮面ライダーが大挙登場する「ネガの世界」、第22、23話は海東がもともと居た世界「ディエンドの世界」をめぐった士は、さらに当時「スーパーヒーロータイム」として『ディケイド』の直前に放送(日曜あさ7:30)されていたスーパー戦隊シリーズ『侍戦隊シンケンジャー』(2009年)が活躍している「シンケンジャーの世界」にまで足を運んでいる(第24、25話)。
また、2009年8月8日から公開された映画『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』で、平成仮面ライダーだけでなく、歴代の昭和仮面ライダーとも共演を果たしたディケイドは、テレビでも第26話で『仮面ライダーBLACK RX』(1988年)、第27話で『仮面ライダーBLACK』(1987年)、そして第28、29話では『仮面ライダーアマゾン』(1974年)との共闘を実現させている。本来、仮面ライダーBLACK RXは仮面ライダーBLACKがパワーアップして誕生した存在ゆえ、両者が同一画面に収まるにはよっぽどの理由(どちらかがタイムスリップするなど)が必要だったのだが、あらゆる時空を飛び越えるディケイドのおかげでBLACKとRX、"2人の南光太郎(演:倉田てつを)"が同時変身するという、夢の競演が映像化された。オールライダー登場の映画が製作されたことを機に、平成仮面ライダーだけでなく、昭和の仮面ライダーたちにもスポットが当てられ、『ディケイド』という作品の底知れぬ度量、懐の深さを思い知るかたちとなった。
最終回となった第31話「世界の破壊者」では、第1話冒頭で夏海が夢に見た「ライダー大戦」につながる、危機的エンディングが迎えられた。しかし、大勢の仮面ライダーから攻撃を受けるディケイドの運命、そして滅びゆく世界の行く末など、多くの謎と疑問を残したまま番組は終了してしまう。最終回の放送(8月30日)からおよそ3か月後に映画『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』の1パートとして『仮面ライダーディケイド 完結編』という作品が作られたが、ここでもまだ士の旅は終ることなく、これからいくつもの世界をめぐることが示唆されている。作品の垣根を飛び越えることのできる仮面ライダーディケイド/門矢士は永遠の「通りすがりの仮面ライダー」として、エンドレスな"旅"を続ける存在であるのだろう。
平成仮面ライダーシリーズは10作目の『ディケイド』で総決算を行った結果、また新たなる方向性を探って意欲的な作品を生み出すことになる。次回は、スタイリッシュな世界観を極め、ハードボイルドタッチの良質なストーリーが魅力の『仮面ライダーW(ダブル)』(2009年)の概要をご紹介していきたい。
映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』は12月22日に公開される。
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