振り返ってみると、東芝のPC事業は、東芝の屋台骨を揺るがした不正会計処理問題の舞台になり、全体の業績悪化に伴い、事業規模を縮小。一時は、富士通やVAIOとの統合を模索した時期もあったが、それも頓挫し、自立再生を目指したが、2016年度には約5億円の赤字、2017年度には96億円の赤字を計上し、それも断念せざるを得なくなっていた。
2010年度には、年間約2,500万台の出荷計画を打ち出し、世界のPCメーカーと伍して戦う、日本最大のPCメーカーの座を維持し続けてきた東芝であったが、シャープによる買収金額は、わずか40億500万円。相場から見ても、あまりにも安い価格で譲渡されてしまうほどの存在になっていた。
1%の海外シェアを伸ばして成長力へ
今回の中期経営計画の発表で示した2018年度見通しは、売上高が1,600億円。営業利益は上期のマイナスが残るため、通期では46億円の赤字となるが、「2018年10月からの下期は、黒字になる計画」(東芝クライアントソリューション代表取締役社長兼CEOの覚道清文氏)と、下期黒字化を目指す。
また、2019年度には売上高2,400億円、営業利益20億円と、通期での黒字転換を見込むほか、2020年度には売上高3,400億円、営業利益70億円という計画だ。
2019年度を本当の意味でのスタートだとすれば、1年目に黒字化、2年目には、2018年度比で売上高倍増という意欲的な構想だ。
国内PC市場は、Windows 7のサポート終了に伴う買い替え需要や、消費増税前の駆け込み需要などが想定され、当面は成長局面が見込まれている。だが、Dynabookが目指すような高い市場成長ではない。同社では、業界平均を大きく上回る成長を見込んでいるのだ。
だが、石田会長は、「東芝ブランドのPCが持っているシェアは全世界でわずか1%。この市場において、シェアや出荷台数を増やすことは難しくない」と言い切る。 とくに海外市場での展開を、急成長の原動力に位置づける。
「プレミアム機」や「アジア攻略機」で海外へ再参入
今回発表された計画では、北米においては、2020年までに年平均成長率131%増の目標を掲げ、欧州では同93%増、日本でも同27%増を目指す。これにより、現在の海外売上比率22%を、42%にまで高める。
海外では、東芝ブランドのPCは人気が高いが、dynabookに関しては、北米で商標権が取れなかったことなどもあり、海外ブランドとしては使用していなかった。その点で海外市場においては、新ブランドでの製品投入という言い方もできる。
Dynabookは、欧米やアジア市場への再展開を見越して「プレミアム機」や「アジア攻略機」を、ノートPCカテゴリに用意する計画を明らかにしたが、こうした製品ラインアップの強化とともに、ブランド戦略をいかに遂行し、認知度を高めることができるかが、海外市場での成否を左右する。
鴻海グループの強力な販売網を活かせるか
しかし、これまでの東芝時代とは異なるのが、シャープの親会社である鴻海グループの力を活用できるという点だ。
実際、シャープの液晶テレビは、2016年度には年間550万台の出荷に留まっていたものを、2017年度には、1000万台の出荷規模に倍増させた経緯がある。この背景には、鴻海グループの販売網の積極的な活用が見逃せない。こうした「鴻海マジック」ともいえる手法が持ち込まれれば、海外におけるdynabookの販売にも大きな弾みがつくことになる。
Dynabookが置かれた環境は、これまでとは大きく異なる。意欲的すぎるともいえる成長戦略も、以前の体制では多くの人が否定的であったろうが、新たな体制によって、現実味を帯びて感じられるのも確かだ。
ちなみに、石田会長は、ソニー時代にVAIO事業を統括していた経緯がある。鴻海グループの後ろ盾、シャープが復活した経営手法の採用、VAIOを成功に導いた石田会長の手腕が重なりあって、Dynabookが復活の道を歩むことになる。