この30年間の選考で印象深いのは、平成7(1995)年だ。「地下鉄サリン事件」が発生し、一連のオウム真理教による事件が大きな注目を集めた年で、「当時の審査会はホワイトボードに言葉を書き出していたんですが、100語あがった中で30語以上が、『ポアする』『サティアン』など、オウムの言葉だったんですよ」と回想。当時小学生だった筆者も、悪気なく発していた記憶がある。

だが、それらオウム関連の言葉は、一切ノミネートにすらしなかった。この決断をしたのは、当時審査員長だった、ノンフィクション作家でジャーナリストの故・草柳大蔵氏。「新語・流行語大賞もジャーナリズムでなければいけないという話をされて、あえてオウムの言葉を授賞対象にしないということを賞としてのメッセージに提案されました」といい、「読者投票でもオウム語が多かったですし、あのままだったら、トップテンにもぞろそろ並んだかもしれません」と振り返る。

しかし実際には、阪神・淡路大震災からの復興をスローガンに掲げたプロ野球・オリックスの「がんばろうKOBE」メジャーリーグに渡って熱狂させた野茂英雄投手の「NOMO」など、前向きな言葉が年間大賞に選ばれた。

アムロス・ぎぼむす落選…今年は豊作

そんな歴史を積み重ねてきた新語・流行語大賞だが、今年の傾向を聞くと、「『翔タイム』(大谷翔平選手)も『なおみ節』(大坂なおみ選手)も『(大迫)半端ないって』(大迫勇也選手)も、スポーツ選手はみんな国際舞台で活躍するようになったのが印象的です。『悪質タックル』や『奈良判定』も含めて、良くも悪くもスポーツ関連の多い年でした」という。

『現代用語の基礎知識』シニアディレクターの清水均氏

毎年、一定の存在感を見せる政治関連は「首相案件」「ご飯論法」にとどまったが、「これは国民の政治離れの反映でしょう」と分析する。「例えば “モリカケ”問題への追及にしても昨年に比べて熱の冷めようが甚(はなは)だしい。メディアの報道ぶりも手ぬるくなって、それが“盛り下げ”につながったのだと思います」。

惜しくもノミネート30語に入らなかった言葉を聞くと、「アムロス」「平成最後の○○」「ぎぼむす」「紀州のドン・ファン」など。どれもよく聞いた言葉だが、それだけこの賞は狭き門ということで、「今年は豊作と言っていい年だと思います」とのことだ。

この30年で趣味嗜好の多様化が進み、選考は難しくなってきているというが、「新語・流行語大賞への注目度はむしろ高まってきた」と実感しているそう。「日本人はたしかに成熟して、他人と違う個性を志向するようになった。と、そんなふうに見えますが、まだまだどこかで標準のラインとかアベレージ(平均)がどこにあるのかということにも関心が強い。時代は変わったように見えながら、実のところ、日本人はなかなか変わってないということかもしれないですね」と推測している。

今年のノミネート30語(五十音順)

「あおり運転」「悪質タックル」「eスポーツ」「(大迫)半端ないって」「おっさんずラブ」「GAFA(ガーファ)」「仮想通貨/ダークウェブ」「金足農旋風」「カメ止め」「君たちはどう生きるか」「筋肉は裏切らない」「グレイヘア」「計画運休」「高プロ(高度プロフェッショナル制度)」「ご飯論法」「災害級の暑さ」「時短ハラスメント(ジタハラ)」「首相案件」「翔タイム」「スーパーボランティア」「そだねー」「ダサかっこいい/U.S.A」「TikTok」「なおみ節」「奈良判定」「ひょっこりはん」「ブラックアウト」「ボーっと生きてんじゃねーよ!」「#MeToo」「もぐもぐタイム」