当初、何かと世話を焼きたがる少女・野村静香(演:小池里奈)以外の人間と一切接触を持たなかった渡だが、恵や名護、そしてロックを愛する青年・襟立健吾(演:熊井幸平)たちとの出会いによって徐々に心を開き、自分の考えを言葉で伝えられるようになっていく。

音也と一緒に過ごした記憶を持たない渡は、「ブラッディローズを製作した偉大なるバイオリン職人」として父を尊敬していたが、実際の音也は美しい女性を見るとすぐに惚れてしまう上に、他人に対して非常にいいかげんな態度を取るとんでもない人物だと関係者から聞かされ、ショックを受けてしまう。

しかし、そんな音也だが音楽の才能は飛びぬけており、高級クラブで豪遊し、カジノで大負けしても、バイオリン演奏を一曲披露するだけで全部チャラにしてしまうほどの腕前を持っている。第9、10話では音楽を愛するフロッグファンガイア/大村の心を揺り動かす演奏を音也が行ったため、彼に「二度と人間を襲わない」と誓わせたことがあった。また音也は、体力に自信がないながらも「素晴らしき青空の会」のために開発された対ファンガイア用強化スーツ「イクサシステム」を装着し、仮面ライダーイクサとなってファンガイアに挑んだことも幾度となくあった。開発されたばかりのイクサシステムは装着者にかなりの負担がかかり、最初にイクサを装着した次狼でさえも、初装着時はかなりのダメージを負うことになった。そんな未完成な部分の残るイクサをも死にもの狂いで使いこなす音也は、天才音楽家であるだけでなく、強い情熱と(主に女性に対する)愛を備えた戦士だということができる。『仮面ライダーキバ』という作品は、天才の父・音也を息子の渡がいかにして乗り越え、たくましく成長していくかを追ったドラマなのだ。

1986年の仮面ライダーイクサ初登場から22年後、2008年ではイクサが10回目のバージョンアップを行った「Ver.X」として、主に名護が装着してファンガイアと戦うことになった。最初は渡や健吾から尊敬のまなざしで見られていた名護だったが、その極端な正義感の強さから来る「悪」への異常なまでの憎しみや、悪人を捕らえた証明として「服のボタン」を集めることにこだわるあまり、悪人そのものよりもボタンをむしり取る行為のみに熱を上げる奇行を見せたりして、カリスマ性を急激に失っていった。当初は完璧なヒーローと思われていた名護も、音也や渡と同じく"欠点"を持つ人間であり、激しい戦いや仲間たちと関わっていくことによって人間的に成長していく姿が描かれていった。

ファンガイアにはチェックメイトフォーと呼ばれる最強の4体(ルーク、ビショップ、クイーン、キング)が存在しており、音也はゆりを愛しながらもクイーン/真夜(演:加賀美早紀)の美しさにも惹かれていき、やがて彼女の願いを聞き入れてひとつのバイオリンを作り上げようとする。人間を愛するファンガイアを抹殺する使命を持っていたクイーン/真夜だが、自分自身が人間を愛したことにより仮面ライダーダークキバ/キング(演:新納慎也)の怒りに触れてしまう。

一方現代編では、渡と心を通わせ、互いに惹かれあう深央(演:芳賀優里亜)と、渡が唯一心を許せる友であると同時に新たなキングとなるべき仮面ライダーサガ/登太牙(演:山本匠馬)が登場。渡は深央への想いと太牙への友情との板挟みで、悩み苦しむことに。音也はキングに対抗するため、キバットバットII世(声:杉田智和)の力を借りてダークキバに変身し、最後の命を燃やして戦いに挑む。そして現代では太牙がダークキバとなり、渡が変身したキバ・エンペラーフォームと宿命の対決を行う……。

1986年と2008年という2つの時代を並行して描き、時間と空間を越えた壮烈な「愛」と「争い」のドラマを繰り広げた『仮面ライダーキバ』は、愛すべき濃厚な個性を備えた登場人物たちの魅力もあって、視聴者に強い衝撃と感動をもたらした。次回は平成仮面ライダーシリーズの10作目を記念し、さまざまな次元を飛び越えて「仮面ライダーの世界」をめぐる"世界の破壊者"こと門矢士の旅を描いた『仮面ライダーディケイド』(2009年)の解説を試みたい。

映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』は2018年12月22日(土)より公開される。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

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