2018年9月からテレビ朝日系で放送されている連続テレビドラマ『仮面ライダージオウ』では、仮面ライダージオウ/常磐ソウゴ(演:奥野壮)が『仮面ライダークウガ』(2000年)から『仮面ライダービルド』(2017年)まで19もの「平成仮面ライダー」の"時代"をめぐる物語が描かれている。歴代仮面ライダーの力を宿した「ライドウォッチ」を手に入れることで、50年後の未来における"最低最悪の魔王"=オーマジオウへと一歩ずつ近づいていくソウゴ。しかし彼は"魔王"ではなく、かねてからの目標であった"最高最善の王"になるという強い信念を貫こうとしている。果たして、これからのソウゴを待ち受ける運命とは……?
『仮面ライダークウガ』から『仮面ライダービルド』まで19の「平成仮面ライダー」が存在する"時代"を行き来する仮面ライダージオウの登場によって、歴代の平成仮面ライダーそれぞれに、いま改めて注目が集まっている。12月22日(土)には、『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』と題されたスペシャルな映画の公開が控えている。ここでは、平成仮面ライダーシリーズをふりかえる企画の第9弾として、父と子の「2つの"時代"」にまたがって繰り広げられた、激しい「愛」と「争い」のドラマを描いた『仮面ライダーキバ』(2008年)の作品概要をご紹介してみよう。
『仮面ライダーキバ』は、2008(平成20)年1月27日から2009(平成21)年1月18日まで、テレビ朝日系で全48話を放送した連続テレビドラマである。本作は『仮面ライダー』シリーズの原作者である故・石ノ森章太郎氏の生誕70周年という節目の年に放送されたこともあって、「石ノ森章太郎生誕70周年記念作品」というテロップが第1話の冒頭に挿入された。
前作の『仮面ライダー電王』(2007年)では、「電車に乗って時間を移動する仮面ライダー」というかなり挑戦的なキャラクター設定が作られ、これが子どもから大人の幅広い年齢層にわたって大好評を博した。本作ではヒーローや変身アイテムのモチーフに「コウモリ」を採用。敵である「ファンガイア」は人間のライフエナジー(生命エネルギー)を食らうという設定となり、全体的に「怪奇」「ホラー」テイストを散りばめているのが大きな特徴となった。敵の怪人に怪奇色を持たせ、対するヒーローにもどこかダーティな匂いを漂わせる、というのはまさしく第1作『仮面ライダー』(1971年)の初期エピソード(第1~13話)にも通じる、仮面ライダーの"原点"というべき姿勢だといえよう。
本作の大きな"独自性"は、2008年の「現代」と1986年の「過去」、2つの"時代"での出来事が巧みにからみあい、ひとつの"物語"を作り上げるという「二重構造」のストーリー構成である。従来ならば2008年の仮面ライダーキバ/紅渡(演:瀬戸康史)の物語をメインとして描き、過去のことは「回想シーン」という形で表現されるはずなのだが、本作では渡の父親である紅音也(演:武田航平)がファンガイアと戦っていた1986年のストーリーが現代と同じボリュームで並行して進められ、2つの"時代"の描写が交互に現れるスタイルとなっている。
2008年、亡き父・紅音也が作り上げた「ブラッディローズ」を超える名器を生み出すべく、日夜バイオリン製作に励んでいる紅渡は、外の世界に触れたとたん体調を崩す「この世アレルギー」とでもいうべき内向的な若者だった。しかし彼は、人類のライフエナジーを奪う怪物ファンガイアの存在を感知すると、異形の戦士「キバ」に変身して戦う能力を持っていた。時をさかのぼること22年前となる1986年、天才バイオリニストの音也は女戦士・麻生ゆり(演:高橋ユウ/当時:高橋優)と出会ったことがきっかけでファンガイアの存在を知り、やがて熾烈な戦いの道を歩むことに……。
渡は父・音也とファンガイアの母との間に生まれたため、キバへの変身能力を有している。相棒のコウモリの姿をしたモンスター・キバットバットIII世(声:杉田智和)が渡の腕に噛みつくことによって魔皇力を活性化させ、キバットをキバットベルトに装着。渡の全身に「キバの鎧」が装着され、変身を完了する。キバの右足には鎖で封印された「ヘルズゲート」があり、これを解放した状態で放つキック(ダークネスムーンブレイク)は一撃でファンガイアを粉砕するほどの破壊力を備えている。
ファンガイアとは、古来より人間社会に身をひそめて密かに人間のライフエナジーを捕食してきた怪物の総称である。多くのファンガイアはふだん人間に姿を変えており、理性的な行動を取る者も少なくはないが、自分たちが生きる手段としてライフエナジーが絶対に必要なことから、人間にとって「天敵」というべき脅威でしかない。そんなファンガイアの存在を察知し、独自の対抗手段を持とうとする者たちがいた。嶋譲(演:金山一彦)を長とする「素晴らしき青空の会」である。1986年当時は麻生ゆりがファンガイアハンターとして戦っており、そこに音也が首を突っ込んでくるかたちになっていたが、2008年ではゆりの娘である麻生恵(演:柳沢なな)が亡き母の志を継いでファンガイアに挑んでいる。また正義感が強く、他人には常に"上から目線"で接する名護啓介(演:加藤慶祐)もメンバーの1人である。
本作は基本的に2話で1つのエピソードが語られ、過去で起きたファンガイア事件が22年後の現代に思わぬ形で影響を及ぼしたり、過去で音也と接した人物(あるいはファンガイア)が現代で渡に重要な助言を行ったりするなど、2つの"時代"が密接に絡みあうユニークなドラマ作りが試みられている。ファンガイアは人間よりも生命力が強いため、22年もの時間を経ても外見がまったく変わらない。第22、23話ではこの設定を巧みに活かし、人間の女性を22年間愛し続けたファンガイアの哀しき"人生"がドラマチックに描かれている。
過去編と現代編は時代が違うだけで「同じ場所」でストーリーが進行しているため、「素晴らしき青空の会」メンバーがたむろしている喫茶店「カフェ・マル・ダムール」の店内の様子(壁に飾っているイヤープレートの数や、マスターが飼っている愛犬ブルマンの年齢など)の違いから、22年という歳月の変化を視聴者に感じてもらえる工夫がなされているのも見どころである。ちなみに嶋は1986年当時(33歳)髪を伸ばしていたが、55歳になった現代では短く刈り込んでいる。現代の嶋が昔の体型を維持するべく常にスポーツクラブに通って身体を鍛えている一方で、カフェ・マル・ダムールのマスターを務める木戸明(演:木下ほうか)は特に何もしていないのに22年間まったく外見が変わっておらず、同じ年齢である嶋をよけいに焦らせている。
また、過去と現代が同時に描かれることにより、22年という時間をつなぐさまざまな"謎"が散りばめられているのも本作の魅力。現代編ではすでに命を失っているという音也だが、いつ「ブラッディローズ」を製作したのか? そしていつ、どのようにして渡を授かり、命を落とすのか? という部分はもっとも観る者が興味をひく部分といえる。また、過去編で人間社会を自由にうろついていた魔族、ウルフェン族のガルル/次狼(演:松田賢二)、マーマン族のバッシャー/ラモン(演:小越勇輝)、フランケン族のドッガ/力(演:滝川英治)は、現代編ではキバの戦力である巨大な城の形状をした竜「キャッスルドラン」に3人とも幽閉されていて、それぞれキバの"武器"として呼び出される状態となっている。果たして、22年の間で彼らにどのような事件が起こったのか……。キャラクターの立ち位置を変化させる「原因」と「結果」がどのようにしてつながっていくかというのも、本作のストーリーを追いかける上で注目すべきポイントである。