――今の家は奥様とご一緒に探したんですね。

家を買ったときはまだ結婚する前だったんですけど、嫁の存在は大きかったですね。結婚するつもりではいたので、一緒に内覧に行って、嫁の「ここがいい! 」っていうひと言でだいぶ決まったっすね。

――ご結婚される前に買われたんですか!

こういうのは勢いが大事っすから。内覧も4軒ぐらいしか行ってないです。今の家も、内覧に行ってからハンコ押すまで2週間とかでしたよ。考えてもダメだと思って。実際に住んでみてもっといいところに住みたいってなったら、そこ目指して頑張ればいいじゃないですか。

――男気感じるっす。曲中の「ダボダボの服で押すハンコ ぶっちゃけわかっちゃねぇよなんも」という歌詞にもこれまで以上に重みを感じます。その後には「だけど良くしてくれた担当 この恩は忘れねぇだろう」という歌詞が続きますが、不動産屋選びはどのように進めたんですか?

知り合いにも不動産屋はいっぱいいるんですけど、知り合いからは買いたくないなと思って。知り合いだと文句言えないじゃないですか。俺すぐ文句言っちゃうんで。だからネットとかも使って探しましたね。

  • 1階には寝室、2階にはリビング、3階には制作部屋が

今の家は建売なんですけど、建てて半年ぐらい売れてなかったみたいで、これは叩く価値あるぞと。「半年売れてねぇならもはやこれ新築じゃねぇだろ」なんつって、1週間かけて不動産屋に通いまくって最終的に300万円ぐらい値切りましたからね。

――これは笑ってもいいんでしょうか(笑)。ミュージックビデオに登場する不動産屋の方は、実際に十影さんの家を担当されたご本人だと聞きました。

担当は若い男の人だったんですけど、俺のことを知ってくれてて。「1カ月に1つ家が売れりゃいいだろ不動産屋は! 1カ月は俺の舎弟だ!!」つって、ニトリ行くからクルマ出させたり、飲み会に呼んだりとかして、後輩というより舎弟のように扱ってました(笑)。でも、いまだに暑中見舞いとかお歳暮も送ってきてくれますからね。まあ向こうも商売ですけど、人生で一番高い買い物っすから信頼関係を築くのは大事ですよ。内気な人でも「親身になってくれないと買えません」って言ってみるなりね。

――ラッパーの縦社会バイブスがここで出ましたね(笑)。にしても「ラッパー」と「マイホーム」ってけっこうイメージかけ離れてますよね。

「ラッパー」っていうと、高級車とかジュエリーを自慢してるようなイメージを持たれるかもしれないんですけど、家のほうがすげぇだろコノヤローつって。単純な自慢じゃなくて、周りの人への感謝ありきですけどね。もちろんラッパーで家を買ってるやつもいますよ。でも、曲にしてるやつはあんまりいないでしょうし、ましてやミュージックビデオを撮ってるやつなんて俺ぐらいじゃないですか。

  • チルスポットのバルコニーで一服

ラッパーがよく使うスラング(俗語)で、「In the house/In da house(インダハウス)」ってのがあるんですよ。「○○の登場だぜ!」みたいな意味の。何がインダハウスだバカヤロー、家も買ってねぇやつが言うんじゃねぇよって今なら言えますからね(笑)

――ぐうの音も出ねぇっす(笑)。ご自宅の自慢ポイントはたくさんあると思うんですけど、家を選ぶときには何を重視しましたか?

嫁の意見を尊重したっていうのはもちろんあります。まあ日当たりが良くて駅が近いとかは重視しましたね。あとはバルコニーが広いとか、駐車場付きとか。これだけは譲れないっていう条件を10個決めて、5個以上当てはまったら買うっていうのがひとつの基準として妥当だと思います。5個以上の物件ってなかなか出会えないと思うんですよ。残りの5個はテメーで補うしかないっすね。

  • 家の随所に細かな工夫が光る

俺が買った家も、収納はぶっちゃけ豪華な家の半分とかしかないですけど、そういうのは住みながら自分で補っていけばなんとかなるんで。完璧な物件を買うってなったら、そりゃ予算オーバーすると思うんですよ。そんな家に住めるのは金持ちだけっすね。

――予算もその条件のひとつになりますもんね。

そうですね。俺の場合はちょっと予算をオーバーしたんで、頭金で埋めて。住宅ローン減税とかも考えながら、ローンは35年で組みました。返済額もこれまで住んでた家の家賃ぐらいには抑えられてるんで、生活水準は全然変わってないっす。

  • 独り暮らししていた頃から使用しているという照明器具も

――買うまでの段階で苦労したことは何かありますか?

それは特にないっすね。買ってからのほうが大変っす。区役所を回ったりとか銀行を回ったりとか。でも、その苦労も楽しいと思えるようにやってましたけどね。なんせ自分の財産ですから。そう考えると、賃貸に住んでいたときはマジで何もしてなかったっすね。上下左右、全部屋が敵だと思ってましたし(笑)。

――正直、十影さんが隣人だったらおっかないですよ(笑)。

今の家に住み始めたときは、ちゃんと菓子折り持って近隣5軒は挨拶に行きましたからね。隣のおばちゃんの家の草むしりとかしちゃったりして。

――実際に住んでみて、トラブルとかは起きてないですか?

今のところ全然ないっすね。周りがみんないい人なんで。でも、近隣トラブルが起きる前にその芽を摘みまくっていくのも大事っす。内覧は、平日と休日、そして昼と夜を全部見といたほうがいいですよ。とりあえず家の前にずっと座ってて、うるせえやつとかいねぇかなつって。

  • 3階の制作部屋も公開してくれた

あとは、引越すときも要注意っす。引越し業者が家の中に入って荷物を置いたりしてるとき、外で睨みをきかせといたほうがいいんですよ。

――引越し業者に家を傷つけられないようにってことですか?

いやいや、泥棒が見てんすよ。泥棒って、どの街のどの番地にも生息してて、引越してくるときの荷物の感じで生活レベルとかをチェックしてるらしいっす。泥棒やってる知り合いが言ってました(笑)。だから、引越し中は嫁さんに業者の対応をまかせて、主人はとりあえず警棒とか持ってちょっと離れたところから見張ってたほうがいいんです。

――参考になりすぎます(笑)。それでは最後に、マイホームの購入を検討している人へ向けて、何かひと言アドバイスなどいただけますでしょうか。

これから家を買うって人は、普通に不安しかないと思うんですよ。でもやっぱり住めば都だし、足りないものは自分で補って、テメーの家はテメーで守るしかないんです。家はもはや身体の一部で、近隣トラブルはウイルスみたいなもん。それを自分で払いのける、テメーでトラブルシューティングするっていう覚悟がない限り、家は買うべきじゃないかもしれないですね。マンションだったら話は別ですけど。俺なんて引越したその日に鉄パイプ買って、常にベッドの横に置いてますからね。周りの環境を気にしすぎないで、住んだらもう自分で周りの環境を変えちまえばいいんですよ。

  • 引越した当初は北風が強い日が続いており、窓がガタガタ揺れる度に「誰だオルァ! 許さねぇ!!」と目を覚ましていたという

  • 今年10月には、『ラッパー、家を買う。-神奈川中古マンションRemix-』なる楽曲が公開されるという余波も。同Remixは、横浜南部を拠点に活動するクルー「BAYHOOD」の特攻隊長ことYOS-MAG(ヨスマグ)氏によるもの。十影氏の自宅リビングに鎮座する60インチのテレビでミュージックビデオを見させていただいた

マイク1本で群雄割拠のHIPHOP界をサバイブし、ついにはマイホームまで購入した十影氏。ラッパーならではの歯に衣着せぬ物言いには、ブリンブリンに光輝いた金言の数々が散りばめられていた。インタビュー中には「息子ができたら20歳の誕生日にロレックスをプレゼントしたい」という新たな夢を語る一幕も。『ラッパー、息子にロレックスを買う。』がリリースされるかはわからないが、今後の十影氏の動向からも目が離せない。

最後に、『ラッパー、家を買う。-神奈川中古マンションRemix-』のミュージックビデオを見てお別れとしよう。

(撮影:石津祐介)