■サッカー界で4例目の年間大賞の受賞なるか
もっとも、発足して間もない森保ジャパンの中で若手三銃士ばかりがクローズアップされる傾向に、違和感を覚えていたのだろう。ベネズエラ戦の前から、大迫はこう公言してはばからなかった。
「もちろん上手くできているとは思うけど、その3人だけではなく他の選手も、ディフェンスラインもそうだし、ボランチもそうだし、まだまだいい選手はたくさんいるので。中盤の選手にしても、特にその3人とだけどうこう、という考えはいまのところまったくないですね」
脳裏にはロシア大会の反省が渦巻いているはずだ。大会直前に先発メンバーが固定された一方で、試合の流れを変えられる選手が少なかった。終了間際のカウンターで屈したベルギー代表との決勝トーナメント1回戦でも、日本は交代枠をひとつ残したまま試合終了を告げるホイッスルを聞いている。
リザーブの選手を投入するたびにパワーアップしたベルギーとの差は、まさに選手層の差にあった。だからこそ優勝するまで7試合を戦う、森保ジャパンにとって最初の公式戦となる来年1月のアジアカップUAE(アラブ首長国連邦)大会を見すえながら、大迫はこう語ってもいる。
「アジアカップは試合数も多いし、23人全員の力が必要になってくると思うので。次のワールドカップまであと4年もあるので、各々がしっかりといい競争ができれば一番いいと思っている」
2点リードで迎えたキルギス戦の後半27分に、大迫の言葉が具現化される。川崎フロンターレのルーキー、ボランチの守田英正から鋭い縦パスがFW北川航也(清水エスパルス)に入る。代表初先発を果たした2人が開通させたホットラインに、あうんの呼吸で反応したのが大迫だった。
北川がヒールで、それも後方へノールックで落としたボールに、まるで予測していたかのように走り込んできた大迫が右足を合わせる。ゴール右隅を正確に射抜く、華麗かつ技ありのゴール。誰とでもすぐにコンビネーションを構築してみせる――大迫の「半端なさ」が凝縮された一撃だった。
キルギス戦で年内の国際親善試合を終えた森保ジャパンは、来月下旬から日本国内でアジアカップへ向けた直前合宿に入る。ただ、それまでの間に注目の日を迎える。来月3日に「ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞が発表されるからだ。
平昌冬季五輪も開催された今年はスポーツ選手の活躍が目覚ましく、カーリング女子日本代表「LS北見」が相槌を打つ際の北海道弁「そだねー」や「もぐもぐタイム」、二刀流でメジャーリーグをも唸らせた大谷翔平の「翔タイム」、そして夏の甲子園を象徴する「金足農旋風」もノミネートされている。
その中でも依然として強いインパクトを放つ「(大迫)半端ないって」が選出されれば、サッカー界では1993年の「Jリーグ」、2002年の「W杯(中津江村)」、2011年の「なでしこジャパン」に続く4例目となる。
藤江直人(ふじえ なおと)
日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。