グーグルの新スマートフォン「Pixel 3」「Pixel 3 XL」は、グーグルのリードデバイスとして、最新OSを使いたいユーザーや、シンプルなAndroid OSを使いたいユーザーに向いています。そうした特徴に加えて注目したいのがカメラ機能。Pixel 3シリーズでは、最近の流行に反してシングルカメラながら、デュアルカメラに劣らない高性能を実現しています。
今回は、ディスプレイサイズが大型なPixel 3 XLで、11月15日に実装された「夜景モード」も含め、カメラ機能全般をテストしました。基本的にPixel 3でもカメラ機能は同等なので、ここでは両モデルをPixel 3(シリーズ)として記載します。
Pixel 3のカメラはソフトウェア処理が抜群にうまい
最近のスマートフォンカメラの多くはデュアルカメラ以上のカメラを搭載しています。たいていは標準レンズに加え、より画角が狭い=望遠レンズを搭載しています。これによって擬似的にズームレンズとして動作しています。中にはより広角のレンズを搭載するものや、望遠と広角の両方のレンズを搭載するものもあります。カラーセンサーとモノクロセンサーを組み合わせて高画質化を図るといった例もあります。
また、カメラを2つ搭載すると、人間の目のように視差を利用することで被写体までの距離を測定でき、より自然な背景ボケも狙えます。
しかし、グーグルが満を持して投入したPixel 3は、背面のメインカメラが1つという最近では珍しいタイプです。もちろん低価格スマートフォンでは珍しくないのですが、10万円クラスのハイエンドモデルでは、例えばiPhone XRが同じく10万円超えでシングルカメラなものの、ほかはあまり多くありません。
2つのカメラを搭載することで利便性は高まるのに、Pixel 3がシングルカメラなのは理由があります。それが「AI」です。グーグルがいう”AI”を駆使してシングルカメラでもデュアルカメラ並みの使い勝手を目指したのがPixel 3です。
機械学習で超解像ズームに対応
Pixel 3で、AIを使ったカメラ機能のひとつに、ズームが挙げられます。
デュアルカメラを搭載した一般的なスマートフォンのズーム機能は、望遠レンズと標準レンズの画角を切り替えながら、画角の差をデジタルズームで埋めることで擬似的な光学ズームとして動作しています。わざわざもうひとつのレンズを搭載するのは、それがシングルカメラより明らかに高画質だからです。
では、デジタルズームでも十分な画質が得られればシングルカメラでもよいのでは……というのがPixel 3の目指す方向です。デジタルズームで劣化した画質を補完して画質向上を図ることは可能ですが、それを機械学習をベースにしたディープラーニングによって、より高画質なデジタルズームを追求したのが、Pixel 3に搭載された超解像ズームだといいます。
実際の写真を見てみると、3倍程度までのズームであればなかなかの処理を見せ、「スマートフォンの中望遠レンズ」ぐらいの画質はあるようです。5倍ズーム付近になると粗が目立ち始めるので、実用的なのは3倍ぐらいまででしょう。グーグルによれば、「火星の表面を撮影するのに使われている技術」だということですが、それ自身は高画質とイコールではないので、まあ、話半分といったところでしょう。
ただ、アプローチとしてはグーグルらしくていいと思います。ハードウェアとは異なり、ソフトウェアであればあとからアップデートでさらに高画質化できそうという点も期待が持てます。Pixel 3によって学習が進んで、さらに画質改善につながる可能性もあるかもしれません。より進化すれば5倍、さらに10倍ぐらいまで高画質なズームが実現するかも、と夢が広がります。
背景ボケもだいぶ健闘
スマートフォンにデュアルカメラが使われがちなもうひとつの理由が、視差を使った距離測定です。先に書いたように、カメラで距離を測定できると「被写体」と「背景」が分けられ、背景をボカしたり、撮影後にフォーカスを変更したりできます。
シングルカメラだと、その測定をハードウェアではなくソフトウェアで実現する必要があります。Pixel 3はここでもディープラーニングと機械学習によって、被写体の認識と境界の検出・分離、背景のボケ処理といった機能を実現しています。
こちらも十分にうまく動作しています。被写体のエッジのぎりぎりの部分はややごまかしている部分もありますし、ストローや髪の毛のような細い被写体も誤認識しがちですが、それでも十分な精度で被写体を分離してくれます。また、人物だけでなく、どんな被写体でもボケを作れるのもメリットです。
試して見た限り、確かにデュアルカメラでなくてもいいかもしれません。光学的なボケに比べ、デュアルカメラでも細かい部分のボケは苦手だからです。デュアルカメラであっても失敗すること場合もありますし、背景になった途端に急激にボケる不自然さは、ボケ機能があるスマートフォン共通で、まだまだリアルなボケには達していません。Pixel 3ではこれもソフトウェアとAIの進化で改善していくでしょう。
超広角のインカメラ、歪みもうまく補正
シングルカメラのメインカメラ(背面カメラ)に対して、Pixel 3ではインカメラ(前面カメラ)がデュアルカメラ。Pixel 3では標準のレンズに加えて広角レンズを搭載し、利便性を追求しています。
実際に使ってみると、インカメラの広角レンズは個人の自撮りだけでなく、複数人での自撮りに便利なものでした(もともと、そのために搭載された広角レンズですが)。自撮り棒を使う場合を除けば、人間の手を目一杯伸ばしても、普通のレンズだとそれほど広い範囲を撮影できません。
広角レンズであれば、無理な姿勢にならなくても、違和感なく背景まで広く写った自撮りができて便利です。インカメラの標準レンズは実焦点距離2.97mm、広角レンズは同2.03mm、画角はそれぞれ75度と97度とされています。センサーサイズが明らかになっていないために分かりませんが、超広角といっていい画角です。
その分、周辺の歪みは大きくなりますが、ここでもPixel 3ではソフトウェア処理が入り、再生時に自動的に歪みを補正します。歪みの補正は強力で、人物を四隅に配置しても通常の超広角レンズのような歪みは感じられなくなります。
Pixel 3は、実はJPEG+RAWで保存できるのも見逃せないポイント。メインカメラでRAW対応するスマートフォンは少なくないのですが、インカメラでもRAW対応するスマートフォンは珍しいでしょう。もちろん、RAW画像は補正されていない生画像なので、比較のためにJPEG画像と見比べてみても面白いです。
ということで、インカメラの超広角/標準レンズでセルフィーした写真を、同時保存したJPEG+RAW画像で比べてみたところ、画角がわずかに狭くなっていることがわかりました。なかなか高度な補正をしていそうです。超広角での撮影は、撮影後の最初の表示まで、補正のため1~2秒ほど待たされる以外は普通の写真と同じように撮影できます。
補正は超広角側でのみかと思いきや、同時保存したRAW画像と比べてみると、標準カメラでも補正が行われています。こうしたレンズ補正は珍しいものではないのですが、人物を隅に配置したり、建物を記録したりする場合にも有効です。
ほかにも、AR機能のPlaygroundや、カメラで表示したテキストなどを認識するGoogleレンズなども面白い機能です。Playgroundは、キャラクターを画面上に表示して一緒に撮影できる機能ですが、一緒に写る人物の表情や仕草にあわせてキャラクターが動くなど、現実を認識してくれます。
Googleレンズも同様に現実を認識する機能で、レンズを向けた先のテキストを認識して翻訳したり、写り込んだランドマークを教えてくれたり、といった機能を備えています。このあたりはPixel 3固有というわけではなく、各アプリがほかのAndroidスマートフォンまで広がれば、ほかの端末でも楽しめるでしょう(ちなみにAndroidスマートフォンでは、GoogleアシスタントやGoogleフォトからGoogleレンズが使えるようになりました)。こういった点はソフトウェアベースの強みです。
手持ちでも夜景が鮮やかに撮影できる!
さらに注目したいのが、新たに追加された「夜景モード」です。11月15日のアップデートで追加された夜景モードは、手持ちでの夜景撮影に最適な機能です。いくつか撮影してみましたが、ホワイトバランスが暖色寄りに調整されるなど、より夜景らしい写真が撮影できます。