Photoshop完全版をiPadで動かすには
画像編集アプリとして業界標準的なPhotoshopのiPadへの移植は、非常に大きなインパクトがあった。30年来のコードを研究し、iPad上で動作するように組み立てていった。
AdobeのCTOを務めるAbhay Parasnis氏に聞くと、既存のPhotoshopユーザーのために同じエンジンを移植したという。さらに、レイヤーの数も、200であろうが1,000であろうが特に制限なく扱えるようにし、デスクトップと同様にAIの力を生かす編集機能を踏襲するそうだ。
Scott Belsky氏は、ソフトウェアの設計についても少し踏み込んだ話をした。
「新しいPhotoshopの処理は、インターフェイスと分離されて設計されました。これまでは統合された30年来のコードを使ってきましたが、iPadではコアテクノロジーとインターフェイスを分離させつつ、デスクトップと同じように快適に動作するようにしました。
PhotoshopのiPad版を開発するにあたり、新しいジェスチャーやインターフェイスを用意しました。コンテクストに応じて変化する非常にユニークなUIも実装しています。レイヤーは通常は箱形のビューを用意しますが、従来の表示を展開することもできます。
モダンなPhotoshopのファイルはクラウドに置かれます。iPadだけでなく、デスクトップでも同様に開くことができます。ユーザーは、どのデバイスで作成されたファイルか、気にする必要はないでしょう」
CTOのParasnis氏は「めざましい開発力が投入された」と、PhotoshopのiPadへの完全移植を振り返りつつ、唯一無二の写真編集アプリであるとアピールした。
実際に触ってみた
Adobe MAXではしばしば、AdobeとAppleによって、限られたプレスやクリエイターを招くシークレットイベントが開かれる。しかし、そのテーマは常にモバイルにおけるクリエイションだった。
今回、このイベントでは、Adobe MAXの基調講演で紹介されたPhotoshopのiPad向け開発版に加えて、ドローイングアプリのProject Gemini、AR制作環境のProject Aero、そして製品版がリリースされたビデオ編集アプリのPremiere Rush CCのタッチアンドトライが行われた。
iPad上で動作するPhotoshopは、リリース前の現段階でも非常にスムーズに動作しており、あらゆる編集機能がきちんと動く、そんな高い完成度だったことに驚かされた。200を超えるレイヤーを持つPSDファイルをiPadで開いても、レイヤーのスクロール、画像の拡大縮小などはデスクトップ以上に快適に動くのではないか、と思わせるほどだった。
Project Geminiも同様に、スムーズに動作していた。このアプリは線のデータ(ベクターデータ)と点のデータ(ラスターデータ)の双方を描画することができるドローイングアプリだ。しかも、油絵や水彩画は、インクの特性や混ざり具合、にじみ具合を数値的に計算して再現しており、実際に絵筆でキャンパスに絵を描くテクニックをデジタルで活用できるようにした。
Project Geminiでも、iPad版Photoshopと同じレイヤーなどのインターフェイスデザインが採用されており、iPad向けソフトウェアの共通の体験を作り出そうとしていることが分かる。
クリエイティブのワークフローに組み込まれるモバイル
既に配信されているPremiere Rush CCでは、スマートフォンやタブレット、ノートパソコン、デスクトップといったさまざまなデバイスにまたがるクリエイションの作業がどのように進むのかを理解するうえで役立った。
例えば、iPhoneで撮影したビデオをiPhone上のRushでタイムラインに並べ、大まかなカット編集を済ませておく。そのデータはクラウドにアップロードされる。今度はiPadでビデオを開き、Lightining接続のマイクを通じてナレーションを収録し、Macでそのプロジェクトを開いて字幕や音楽などを編集して完成させるという具合だ。
それぞれのデバイスでやりやすい作業が存在していることから、1つのプロジェクトでも、デバイスを使い分けることでよりスムーズな作業を実現することができるのだ。
これが、2019年にはグラフィックスや写真の世界で実現されることになる。10月30日にニューヨーク・ブルックリンで開かれたイベントでアップデートされた新しいiPad Proが、そのけん引役を担っていくことだろう。