宇宙から来た知的生命体であるワームは、サナギの状態で群をなして人間に襲いかかってくる。これを迎え撃つのが、ZECTの汎用戦闘員ゼクトルーパーである。ゼクトルーパーのマスクにはいわゆる一般的な仮面ライダーのイメージである「大きな目」と「触角のようなアンテナ」が備わっており、『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)に登場した「ライオトルーパー」をさらに一歩進めた"量産型仮面ライダー"の具現化として、強い印象を残した。サナギワームはみな同じ姿をしているが、それぞれが「脱皮」を行うことで、多種多彩な成虫へと変化する。成虫ワームには人間の知覚をはるかに超えるスピードで行動することのできる「クロックアップ」という能力が備わっていて、これを使われるとゼクトルーパーでは太刀打ちができない。そこで登場するのがマスクドライダーシステム、すなわち本作に登場する「仮面ライダー」たちである。
仮面ライダーカブト、ならびに本作における仮面ライダーの大きな特徴は、ゼクターによって変身を完了した第1形態「マスクドフォーム」から、第2形態の「ライダーフォーム」へと二段変身を行うところである。最初はパワーと防御力に優れたマスクドフォームで戦い、さらにはアーマー(装甲)を解除(キャストオフと呼ばれる)することにより、より高い戦闘能力を備えるライダーフォームとなる。本作では仮面ライダーもワームと同様、サナギの状態から成虫へと華麗なる変身を遂げるというわけである。「二段変身」を行うヒーローということでは「仮面ライダー」シリーズと同じく石ノ森章太郎氏が原作を手がけた特撮テレビ作品『イナズマン』(1973年/渡五郎がサナギマンからイナズマンへと"変転"する)を思わせる。最新のデジタル映像技術を駆使して、アーマーがはじけ飛ぶさまを具体的なビジュアルで表現したカブトのキャストオフは、観る者に強烈なインパクトを与えていた。
ライダーフォームになったカブトは、成虫ワームと同じくクロックアップ能力を使うことができ、共にクロックアップ状態で戦う両者の姿はすでに人間の眼で追うことが不可能となる。超スピードで動くカブトとワームからすると、周囲の人間や物体はすべて静止しているかのように見える。第4話では雨が降っている場所でクロックアップを行ったため、雨粒が空中に浮いている状態でカブトとワームの激しい肉弾戦が繰り広げられ、これらの卓越した映像表現の数々が、視聴者からの評判を集めた。
ストーリーは、徹底的に"俺様"キャラである天道と、正義感の強い熱血型の加賀美という両極端な2人の「対立」と「理解」を描きつつ、狡猾で邪悪なワームとの凄絶な戦いを追っていく。第7話(初登場は第6話)からはZECTの精鋭部隊「シャドウ」の隊長である矢車想(演:徳山秀典)が仮面ライダーザビーの有資格者となり、ワームと戦うと同時にカブトにも襲いかかった。第11話ではカリスマ的人気のメイクアップアーティスト・風間大介(演:加藤和樹)が銃撃を得意とする仮面ライダードレイクに変身。そして第19話からは名門の末裔ながら現在は没落している神代剣(演:山本裕典)が仮面ライダーサソードになり、すべてのワームを倒すべく奮闘する。第22話では加賀美が念願のライダーへの変身を実現(一時的にザビーに変身したことはあったが)し、仮面ライダーガタックとなってカブトに匹敵する活躍を見せた。
ザビーは蜂、ドレイクはトンボ、サソードはサソリ、ガタックはクワガタと、本作の仮面ライダーはみな昆虫をモチーフにしているのも大きな特色といえる。彼らはみな天道の"俺様"的態度に翻弄されつつも、それぞれの濃密な個性を発揮。セリフや行動などで、等しく強い存在感を発揮した。
ザビー資格者の座を奪われた矢車と、彼の部下だった影山瞬(演:内山眞人)はZECTを追われてドロップアウト。矢車は仮面ライダーキックホッパー、影山は仮面ライダーパンチホッパーに変身し、「地獄兄弟」と名乗って心をすさませたまま暴れ回ることになった。かつてのプライドを捨て去り「今、俺を笑ったな……」「お前はいいよなあ……」とネガティブな発言をやたらと連発する地獄兄弟は、仮面ライダー1号や仮面ライダーBLACKを想起させるバッタモチーフのマスクデザインとも相まって、多くのファンを獲得することができた。また後半では、天道の擬態が仮面ライダーダークカブトに変身し、カブトと激しい争いを繰り広げたこともあった。
ワームの侵略に対抗するZECTの面々、田所修一(演:山口祥行)、岬祐月(演:永田杏奈)、三島正人(演:弓削智久)、高鳥蓮華(演:手嶋ゆか)、加賀美陸(演:本田博太郎)たちをめぐる複雑な人間模様や、天道と運命的なつながりを持つ少女・日下部ひより(演:里中唯)に隠された"秘密"など、濃厚で多彩なキャラクターたちが織りなすストーリーは、実にスリリング。また、ストーリーの合間に挟まれるさまざまな「料理」や「食」に対するこだわり描写も、『カブト』という作品を楽しむ上で重要なポイントだといえるだろう。最終回(第49話)では、全人類を救うためひとりでネイティブに戦いに臨む加賀美の危機が描かれ、そこにさっそうと現れる天道の"揺るぎないヒロイズム"が最高のカタルシスを生んでいる。
何事にも動じず自分の信じる道を突き進む"王道であり最強のヒーロー"を描きあげた『仮面ライダーカブト』に続く作品は、12月22日から公開される映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』でも活躍する"時の列車・デンライナー"に乗った『仮面ライダー電王』(2007年)である。次回では、平成仮面ライダーシリーズ屈指の人気を誇る『電王』にスポットを当て、その魅力に迫ってみたい。
映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』は2018年12月22日(土)より公開される。
■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。
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