こうした久々のアップデートを受けたMacの新製品は、ポジションを繊細に気にしながら構成されているのに対し、iPad Proはそれらを無視するように、パフォーマンスを最大限高めることにひたすら注力した。
iPad Proが搭載するA12X BionicプロセッサのGeekbench 4におけるマルチコアのスコアは18,000に届き、4コアのIntel Core i7を搭載する2018年モデルのMacBook Proと同等のレベルに到達してしまった。もちろん、iOSとmacOS、モバイルデバイスとノート型コンピュータの違いはあるが、タブレットだから処理性能が劣る、という指摘は論理的ではなくなった。
さらに加えれば、MacBookやMacBook AirよりもiPad Proのほうが高い性能を示すことになる。Appleが指摘する「世のポータブルコンピュータの92%よりも、新型iPad Proのほうが高速」という92%に、自社製品であるMacBookや新型MacBook Airも含まれてしまうのだ。
それでも、性能向上にフォーカスせず、超薄型オールインワンというフォームファクターにこだわったMacBook Airを同時に登場させた点は、Appleの意図がほかにあると感じている。
コンピュータのヒエラルキと選び方の変化
繰り返しになるが、性能が高いからMacやPCを選ぶ、という図式は改めたほうがよさそうだ、ということだ。
ノートパソコンよりもタワー型のデスクトップのほうが性能やコストパフォーマンスに優れ、タブレットよりもパソコンのほうが処理性能が高い、というこれまでの常識に、どうしてもとらわれてしまう。
しかし、ファイル管理やWindowsとのデュアルブートといった、パフォーマンス以外の価値を見出してMacBook Airを選択している場合、より高性能のデバイスとしてiPad Proを用意する、というアイディアが成立するのだ。
もちろん、iPad Proもこれまでのタブレットと同様に、動画の視聴やゲームといった用途に用いることができる。しかし、AdobeのクリエイティブアプリのiPad向けソフトウェアが整うにつれて、iPadは高いパフォーマンスを発揮するクリエイティブ向けコンピュータとしての性格が強まっていく。
現状でも、Adobe Premiere Rushを用いたビデオ編集は、MacBook AirよりもiPad Proのほうが快適な編集が可能だ。AppleがiPad向けにプロ向けクリエイティブソフトウェアをリリースしていない点は問題だが、iPad Proはクリエイティブ作業の大きな領域をMacから引き継いでいくことが予測できる。
Mac miniとiPad Proという組み合わせ
そうした環境の変化のなかで、今回のMac miniとiPad Proの組み合わせは、今後大きな提案力をもたらしていくことが期待できる。
今までであれば、iMacやiMac Pro、そしてMacBook Proの2台体制で用意していたところを、Mac miniとiPad Proの組み合わせに代替することも可能になっていくのではないだろうか。例えば、Lightroomで写真を編集するフォトグラファーや、Photoshopを用いてグラフィックスを作るクリエイターは、こうした構成が可能になり、多くのメリットが生まれる。
ディスプレイを持たないMac miniには、4Kや5Kの解像度を持つ外部ディスプレイやキーボードを用いることになるが、iPad ProはMac miniと同じThunderbolt 3ケーブルを用いて、これらのデバイスと接続できる。つまり、Mac miniとiPad Proでデスクにおける周辺機器を共有しやすくなる、ということだ。
それでも、明確な使い分けは存在する。iPad ProではApple Pencilを用いた描画や手書きを中心とした作業をこなし、そのまま作業を持ち出して外出できる。一方のMac miniは、本体もしくは外部接続のストレージを用いてデータの管理などを行う、という具合だ。 コストを大きく増大させず、それでいてこれまで以上の体験を得る可能性を高める、そんな選択肢を今回のラインアップを通じて与えることになる。
もちろん、人それぞれのワークフローやコンピュータ観などで、最適だと考える構成は変化する。しかし、Mac miniとiPad Proという組み合わせは、仕事の現場において、かなり幅広い人にフィットしていく可能性があると感じた。