細川は『響鬼』と同じ時期、NHK大河ドラマ『義経』に出演(平重衡役)するなど多忙であったが、子どものころに「仮面ライダー」シリーズが好きで観ていた思い出を大切にしており、『響鬼』という作品の存在をより多くの人に知ってほしいという気持ちが強く、各種バラエティ番組の出演も積極的に引き受けていたという。身体を鍛え抜き、「魔化魍」を打ち砕く歴戦の勇士でありながら、機械オンチで携帯電話やパソコンが苦手、そして番組開始当初は自動車やバイクをうまく扱えないという、数多くの長所と短所をあわせ持つ魅力的なヒビキの人物像は、細川のパーソナリティがあってこそ輝くことができたと断言できる。

ヒビキが属する民間組織「猛士(たけし)」は日本全国に支部を持つ巨大な集団で、「鬼」もヒビキ以外に多数の者がおり、いずれも人知れず、「魔化魍」の脅威から人間を守って戦っている。明日夢が深く関わっていくのは、猛士・関東支部の本拠地である甘味処「たちばな」の面々。立花勢地郎(演:下條アトム)やその娘の香須美(演:蒲生麻由)、日菜佳(演:神戸みゆき)たちは、ヒビキやイブキ(演:渋江譲二)、トドロキ(演:川口真五)といった「鬼」たちを支援するべく活動している。当初は勢地郎たちの真の活動を知らなかった明日夢だが、高校入学後に「たちばな」でアルバイトをするようになってから、鬼をサポートする猛士の存在をだんだんと理解していった。

『響鬼』で特に目をひくのは、「鬼」であるヒビキやイブキ、トドロキが、暗躍する「魔化魍」を見つけ出し、戦いの場に赴くまでの「段取り」のリアリティだ。まずは猛士のメンバー・滝澤みどり(演:梅宮万紗子)が開発に携わったサポートモンスター・ディスクアニマル(アカネダカ、ルリオオカミ、リョクオオザルなど、動物の姿に変形する円盤型の式神)が偵察・調査を行い、「魔化魍」の存在をキャッチした"当たり"の情報を「鬼」に届ける。その後、「鬼」とサポートメンバーが車やバイクを使って現地へと赴き、現れた魔化魍と戦う……というのが、大まかな流れである。

ヒビキたちは肉体を鍛え抜くことで「鬼」=音撃戦士へと"変身"するのだが、変身の際に衣服がすべて燃えて消滅してしまうので、音撃によって「魔化魍」を退治した後は新しく着る衣服が必要になる。それゆえ、「鬼」たちの身の周りをサポートする猛士メンバーの存在は重要だといえる。1回の変身で「鬼」の体力はかなり消耗するため、猛士では出動のシフト表を組み、出現する「魔化魍」の特性に応じた音撃を行う「鬼」たちを向かわせるようローテーションに気を配っている。これまでの特撮ヒーロー作品ではあまり言及されることのなかった「ヒーローに変身したらそれまで着ていた服はどうなるのか」という問題に明確な回答を示し、「鬼」の行動すべてにリアルなディテールを与えた本作のこだわり演出には、うならされることが多かった。

また、「魔化魍」との長い戦いの歴史を持つ猛士だけに、「鬼」の中には弟子を取って自分の技を次世代へと受け継いでいく者も多く存在する。この"師匠と弟子"の関係性を描くことも『響鬼』という作品の"リアル"を語る上で重要な設定である。イブキ=仮面ライダー威吹鬼は天美あきら(演:秋山依里/放送当時は秋山奈々)という少女を弟子として迎え、共に厳しい修行を続けている。トドロキ=仮面ライダー轟鬼にはザンキ=仮面ライダー斬鬼(演:松田賢二)という優しさと厳しさを備えた師匠がおり、トドロキが鬼として独り立ちするまでは2人で魔化魍と戦っていた。イブキとあきら、ザンキとトドロキの関係を見て、明日夢がヒビキにどのような念を抱くのか(自分も弟子=鬼になりたいのか、それともヒビキとは別な道を行きたいのか)という心の動きも、繊細に描かれていた。

物語は、魔化魍と戦って"人助け"を行う鬼たちの活躍を描くと同時に、明日夢が学校や「たちばな」店内でさまざまな経験を積み、少しずつ成長していく様子を緻密な日常描写を織り込みながら進めていく。

三十之巻「鍛える予感」からは新展開となり、明日夢のライバルとして桐矢京介(演:中村優一)が登場。何かと自分と張りあい、勝ちたがろうとする京介に引っ張られる形で、明日夢は京介と共にヒビキの弟子となって身体を鍛える修行を始める。一方で、大量の「魔化魍」が出現する「オロチ」現象が勃発し、関東の「鬼」たちもさすがに苦戦を強いられる。大量発生した「魔化魍」との戦いによって再起不能になったトドロキに対し、かつての師・ザンキがとった行動とは? オロチを鎮めるための儀式を執り行う任務を帯びたイブキは、その重圧に耐えられるのか? そして、明日夢はヒビキの弟子となり、このまま「鬼」を目指すのか……? 最終之巻(第48話)「明日なる夢」では、オロチ事件から1年が過ぎ、明日夢がどのような人間的成長を遂げたかが描かれる。美しい夕景を見つめながらヒビキが明日夢にどんな言葉をかけたのか、それはぜひ映像作品にてお確かめいただきたい。『仮面ライダー響鬼』は特撮ヒーロー作品における"リアリティ"を根底から見つめ直すと共に、人間ひとりひとりが他者との関わり、つながりによってさまざまに変化していく様子を繊細かつ鮮やかに描き出す、良質のドラマを作り上げようと努力を続けた作品だったといえるだろう。

次回の平成仮面ライダーシリーズ振り返り企画は、第7作目にして『仮面ライダー』誕生35周年記念作品『仮面ライダーカブト』(2006年)を取り上げる。奇抜さという意味では振り切るだけ振り切った感のある『仮面ライダー響鬼』の後を受けた『カブト』では、仮面ライダーファンの心を惹きつけるために、どのようなキャラクター作り、そしてドラマ作りを行ったのか、その"料理"の仕方を追いかけてみたい。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

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