革命的な発明により"パンドラの箱"を開いた人々の運命を描くWOWOWオリジナル「パンドラ」シリーズの最新作『連続ドラマW パンドラIV AI戦争』(11月11日スタート 毎週日曜22:00~ 全6話 第1話無料放送)。医学界を根底から覆す画期的な医療用AI(人工知能)を開発する医学者・鈴木哲郎を演じる俳優・向井理に話をきいた。
2008年に放送された1作目『パンドラ』では「がんの特効薬」をテーマにし、三上博史さん主演を務めた。その後、佐藤浩市主演の『パンドラII 飢餓列島』(2010年)では「遺伝子組み換え食品」、江口洋介主演の『パンドラIII 革命前夜』(2011年放送)では「自殺防止治療法」、堺雅人主演の『ドラマWスペシャル「パンドラ~永遠の命~」』(2014年)では「クローン人間」と、挑戦的なテーマを描いてきた。
――10年の歴史があるWOWOWドラマ「パンドラ」シリーズ最新作で主演を務められていかがでした?
WOWOWのドラマの中でもブランドとも言える「パンドラ」シリーズに参加させて頂けたことを、すごくありがたく感じています。今回はいままでの「パンドラ』とはまた少し違うところがあるんです。もちろん、社会派ドラマであり、科学技術の未来に対して人間がどう向き合うか、という問題を提起する部分はこれまでと同じなのですが、AI医療は既に実際に行われていて、現在進行形の話でもあるので、これまで以上にデリケートに扱わないといけないテーマであると感じています。もちろん「このドラマはフィクションです」というテロップが最後に出るんですけれど、それすら疑ってかからないといけないくらいリアルで、地上波ではなかなか出来ないチャレンジングなことだと思います。それがWOWOWドラマであり、「パンドラ」であると思うので、こういった作品に参加する意義はすごくあると感じていますね。
――同じWOWOWドラマでも『アキラとあきら』の時とは、また一味違いますか?
職業も違いますし、キャラクターも全然違うし、時代設定も異なりますからね。でも「一般の人の目には触れない部分が描かれている」という意味では、同じだなと思いますね。銀行や研究室という閉ざされた空間が舞台になっているので、同業者以外の人の目に触れない世界というのは、僕らからすると「ブラックボックス」だと思うんです。『アキラとあきら』の時も、「どこにいくら貸すと株価が変わるから、銀行員は株の売り買いができない」など、銀行の仕事について知ることが出来たんです。「日本経済の財布の中身を知っている銀行員って怖いな」と思いました(笑)。
僕の叔父も副支店長クラスの銀行員だったのですが、初めて銀行員時代の話を聞かせてもらいました。もう退職してから20年くらい経つのですが、いまだに親族にすら言えないことがあるみたいです。それくらい「ブラックボックス」なんですよね。
今回のテーマであるAIにも、どのような思考経路でそういった診断をしたのか分からない「ブラックボックス」があるんです。台本は少し変わってしまったんですけれど、「無駄に怖がらずに、ブラックボックスをこじ開けてでも、思考の過程がわかるようなAIを作るために努力すべきだ」というセリフがあったんです。それこそ盲目的にAIを信じている「鈴木」にしか言えないセリフなんじゃないかと思いましたね。
今までの『パンドラ』シリーズ同様、今回の主人公の名前も「鈴木」ですが、今回の「鈴木」はこれまでとは少し違った「アツさ」を持った「鈴木」なんですよね。まさにポスタービジュアルの青いトーンが似合う男でありながら、心の中にはすごくアツいものを持っている。
――具体的に、向井さんは本作で描かれる「鈴木」をどのように役作りされましたか?
自分が演じる役柄のセリフはいかようにも表現できますが、実は一番大事なのは、周りの人が「鈴木」をどう形容しているか、ということなんです。だから僕は、周辺人物のセリフを通して、自分のキャラクターを組み立てていくことが多いですね。たとえば、「鈴木先生はAIみたいな人」だと言われるシーンがあるのですが、そうすると「あぁ、AIみたいに演じた方が良いんだ」と思うわけです。すると今度は「『AIみたい』って何だ?」と考え始めるんです。
そもそもAIというのは「人工知能」というシステムの名称にすぎず、実体がないわけです。でもなんとなく既存のイメージとしては、女性のロボットっぽい感じがする。それはおそらく、ハリウッド映画に登場するAIを組み込んだマザーコンピューターの画面に映し出される映像の多くが、女性だからだと思うんです。コンピューター自体が女性名詞で、「her」と呼ばれている。大陸とか、船とか、何かを生み出すものって、全部女性名詞なんですよね。だからきっと、女性が投影されているんじゃないか、とか。あとはロボット的な感じ、というところから発想するのであれば、あえて抑揚を少なめに話してみたり、「鈴木先生はそんなことはやらないよ」といったセリフがあれば、「あぁ、『鈴木』という男は周りからはそう見られているんだ」と思ったり。
――なるほど。向井さんは普段、そうやって役柄のイメージを膨らませているんですね。
脚本家の井上由美子さんも、周りの人のセリフに登場人物のキャラクターを投影している気がするんです。となると、そこからアプローチしていくのが一番自然だと思うので、僕は毎回、他人の人物評を大事にしながら役作りをしていきますね。
――向井さんご自身に「鈴木」と重なる部分はありますか?
僕も表面的にはあまり熱く語るタイプではないというか、情熱的に何かを表現するタイプではないので、そこは鈴木と似ているなと思いますね。もちろん、冷静だからといって冷めているわけではないし、感情を表に出さなくても実は陰ではすごく努力していて、情熱を持って医療に従事する「鈴木」の姿勢にはとても共感できます。僕も「鈴木」同様、趣味が一切ないので、仕事にエネルギーをかけるしか捌け口がないんです。そもそも井上さんって、あて書きをされる方なんです。だから僕自身、演じていてあまり違和感はなかったですね。
――具体的に向井さんに寄せて書かれているな、と感じた部分はどこですか?
自分のことはちゃんと理解出来ていないのでわからないのですが、渡部篤郎さん扮するIT企業の社長とか、三浦貴大くん演じる熱血弁護士とか、キャッチーな肩書の方たちと一緒にお芝居をしていると、「あぁ、これはあて書きだな」と感じるんです。渡部さんは芝居中もずっと渡部さんのまんまだし(笑)。アドリブというか、もはや素でやっている感じがする。三浦くんもイメージ通りでしたし、原田泰造さんも、腕は確かだけど医者っぽくはない「べらんめぇ」な感じがすごくハマっていて。
――原田さんとは、これまでにもドラマやバラエティで共演されていましたね。バーテンダー時代に接客した経験もあるとか。
そうですね。バラエティの場合はあまり現場で話すということはないのですが、前回NHKの時代劇でご一緒した際も「次はWOWOWで!」という感じだったので、あっという間でしたね。僕は原田さんのことは、芸人さんとしてではなく、現場に来たら一人の役者さんとして見ているんです。共演する前から原田さんが出演された作品を見ていたのですが、原田さんは、すごく説得力のあるお芝居をされる方だと思っていて。バラエティの時とは顔つきが全然違うし。役者さんとしてすごく信頼しています。
――医師会会長・有薗直子役の黒木(瞳)さんとは、2008年にNHKの『ママさんバレーでつかまえて』で年の差夫婦役を演じられていましたよね。今回のドラマでは、「宿敵なのかな?」と匂わす雰囲気がありますが。
このドラマの中では、僕と黒木さんはそもそも推進しようとしているものが違うから、相容れない関係なんです。既存の医学界において、さらなる発展を目指す黒木さんに対し、僕や渡部さんは医学界に革命を起こそうとしているから、常に敵視される側なんですよね。
――以前とは全く違う役柄で黒木さんと再び共演されるにあたり、どんな心境ですか?
先日現場でようやく黒木さんにご挨拶ができたのですが、「大人になったわね」と言われました。あの時も別に子どもじゃなかったはずなんですけど(笑)。どうやら完全に子ども扱いされていたみたいです。
――以前は「夫婦役」ではあるものの、「母と息子」みたいな関係だったようですね。
当時僕は役者を始めてから3~4年目くらいの時期で、それまで舞台を全くやったことがなかったんです。でも『ママさんバレーでつかまえて』は、ワンカット長回しのシチュエーションコメディで、最終回は45分の生放送。NHKとしてもなんと50年ぶりの生ドラマだったんです。「舞台やったことないの!?」って黒木さんに言われたのを、今でもすごくよく覚えています。「舞台の経験もないくせに、私と絡むのね」って思われていたのかもしれないですね(笑)。