電動移動車両(eモビリティ)の「SPACe_C(スペイシー)」
伊藤氏が言及したパナソニックの“強み”を生かしたコンセプトカーがどのようなものだったのか、詳しく紹介しましょう。ひとつは2021年に向けて開発中の電動移動車両(eモビリティ)、「SPACe_C(スペイシー)」です。
ネーミングの「C」には、Compact、Commercial(商用)の意味が含まれています。電気を動力としたコンパクトな自動走行車両の空間内を、移動式ショップや文教施設としてマルチに活用したり、コミュニティの「足」としてライドシェア(相乗り)に活用します。このイメージを提案しながら、現在パートナーの獲得に力を入れているそうです。
ドライバーがハンドルを握ることなく、アクセルやブレーキの操縦まで必要としない完全自動運転に対応する車両とそのサービスが現実のものになるためには、道路交通に関する法律が整備される必要があります。
すべての環境が整うまでには、長い時間が必要となるでしょう。なので例えば、テーマパークの一定敷地内だけに、自動運転車両を安全に走行させられるスペースを設けたり、低速走行を条件として周囲の安全を確保しながら有用なサービスを提供するなど、色々と考えられるはずです。
パナソニックの展示スタッフも「2020年の東京オリンピックがきっかけになって何らかしらのサービスが形になれば、2021年ごろに“スペイシー”のコンセプトを活用する可能性も見えてくるのでは」と期待を語っていました。
完全自動運転車両の空間活用「SPACe_L(スペースエル)」
もうひとつのコンセプトカーは、次世代の完全自動運転車両の空間活用を提案する「SPACe_L(スペースエル)」です。こちらの「L」にはLiving、Luxuryの意味が込められています。
ドライバーがハンドルを握らなくてもよくなると、クルマで移動する時間も自宅のリビングと同じようにリラックスできるものになったり、車内をオフィスの延長線上として位置付けながら、働く空間として活用できるイメージも広がります。
SPACe_Lの車中空間は、側面に55インチの透過型OLEDと、天井にも77インチのOLEDが張り巡らされています。4つのシートとその背後には合計22基のスピーカーを配置し、360度の立体的な音場を作り出します。
コンセプトカーには、パナソニックが住宅事業分野で培ってきた照明器具の技術も組み込んでいます。車内空間の活用スタイルに合わせて、光の明るさと色が自動的に最適化されます。車内には温度センサーやサーモグラフィなど様々なセンサーも搭載し、例えば各シートに座る人それぞれが、もっとも心地よく感じる温度にエアコンを自動調整することも可能になるそうです。
ふたつのシートに挟まれたアームレストは、映像・音響・照明のコントローラーにもなっています。薄膜成形されたリアルウッドパネルの下からLEDライトの光を透過させて。ユーザーインタフェースとしています。
コンセプトカーを体験した
展示会場では、車中に張り巡らされたディスプレイとスピーカーを使って、ベルリン・フィルの映像配信「デジタル・コンサートホール」のコンテンツや、水族館の迫力あふれる映像を再生するデモを見せていました。
筆者も展示会場で車両に乗り込んで、SPACe_Lが描くコネクテッドカーのミライを体験してきました。シートに腰かけると、背中の方向からベルリンフィルの活き活きとした立体的な演奏が耳に飛び込んできました。
また、明るく色鮮やかな大型ディスプレイに映し出された海の映像に見とれていると、座席のヘッドレストあたりから心地よいアロマの香りが漂ってきました。こんなに心地よいクルマに乗っていたら、目的地に到着しても降りるのがもったいなく感じてしまいそうです。
ミライのコネクテッドカー
最初に触れたクロストークセッションには、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤社長のほか、同社上席副社長の柴田雅久氏、慶應大学の村井純教授、モータージャーナリストの岡崎五朗氏、ファッションモデルの蛯原友里さん、三菱総合研究所 主席研究員の杉浦孝明氏が参加して、ミライのクルマへの期待を語り合いました。
登壇者からは、「完全自動運転に対応するコネクテッドカーが普及すれば、個人が移動中にオフィスやシアタールームとして活用できたり、子育ての時間にもゆとりが生まれそう」という声が上がりました。
パナソニックの伊藤氏は、「あるいは不特定多数が利用するレストランやショップといった商業空間としての利用や、移動式の医療・文教設備など、より公共性の高い用途への展開も考えられる」とします。加えて、パナソニックが取り組むサスティナブル・スマートタウン事業との連携も図っていきたいと、熱く意気込みを語りました。
パナソニックの柴田氏は、「ホームアプライアンス家電の開発から培ってきたノウハウや技術の中には、ミライのコネクテッドカーに生かせるものが数多くある」と胸を張ります。
例えば、完全自動運転車両はカーシェアリングサービスへの活用も期待されていますが、不特定多数の人々が入れ替わり利用する車中空間を快適に保つために、柴田氏は「エアコンや空気清浄機に搭載されているナノイーの除菌・脱臭効果が活用できる」と見解を示しました。
または、スマートスピーカーや薄型テレビ“ビエラ”にいち早くボイスコントロール技術を搭載したパナソニックだからこそ、騒音に囲まれがちな車中空間で正確かつスピーディーに反応する、音声コマンド対応のユーザーインタフェースを実現できるのではないでしょうか。
クロストークの参加者からはほかにも、完全自動運転を実現したミライのコネクテッドカーが、地方の観光事業の活性化にも一役買うかもしれないという見通しが語られました。今後も、テクノロジーや法整備の課題が一つずつクリアになっていけば、コネクテッドカーには明るいミライが待っているのではないでしょうか。