マクロだと思われていた部分が、実は違うことも
――あと、美穂さんの小説なんかを見ても、他の日常がすごく地味で普通だからこそ、一瞬のきらめきが、けっこうぐっとくるし、切ないというところがめちゃめちゃありました。実は私は、美穂さんの小説を、エッセイの続きだと思って読んでたんです。だから、「あら、美穂さん、阿佐ヶ谷でこんな素敵な出会いをしたのかしら」と思いながら読んでて……。美穂さんがアルバイトをする阿佐ヶ谷のゼリー屋さんって、どこかしら、みたいな。
江里子:高円寺の帰り道とか、モデルになってる場所もリアルでしたからね。美穂さんの方が、そういうところがリアルだったわね。でも確かに、女芸人だと、「イケメンが好きでしょ」とか、「頭ポンポンが好きなんでしょ」とか、そういうフォーマット化されたイメージがあると思うんですよ。でも、そこにときめくかというと、そんなことはないということがあって。『ゴッドタン』の「私の落とし方発表会」でも、「『好きだ!』と言われて抱きしめられるとかではない接し方の方がぐっとくる」という話をプレゼンしたら、それを採用してもらって、反響もいただけたので、そういうことで、みなさんの心が動くというのは、共通してるんだなと。全部がステレオタイプに喜ぶというわけではない、という発見があったんです。みんながみんな、イケメンが好きってわけでもないし。
――最近、女芸人さんも、そういうことを言われてる方増えましたね。美穂さんは、塩見さんや、中嶋悟さんが好きだし……。
美穂:F1レーサーの。だから若い男性と番組で一緒になった時に、テンションがうまく上げられない時があって。あんまり、わーっていう高いテンションにコントロールができない方なので。
江里子:やっぱり、私たちが若い男性と絡ませていただく時に、キャーってやっていても、自分の本心とぶれて申し訳ない気持ちがしてね……。
――でも、今回の本で、そういう細かい思いがところどころで感じられてよかったです。
江里子:今回の本でもそうですけど、出版する前は「こんな地味なもの、誰が読んでくれるのかしら」と思っていたけど、出版して初めて、「あそこがすごく共感できた」とかというお声もいただいて。マイナーなようだけど、マイナーじゃない部分が書けたというか。実はマクロだと思われてることが、それぞれにとっては違うということが、今回のエッセイを出させていただいてわかった大発見でした。
いろんなタイプの人がいる
――小説やエッセイはわりと個人的な思いをつづることができるのかなと思うんですけど、テレビってキャラクターを分かってもらわないといけない作りのものが多いので、一瞬で誰にでも分かりやすく決めないといけなかったりしますよね。でも、そうじゃない、しみじみとした中で伝わるものを、『ゴッドタン』でも実現して、それが笑いになったり、こういう小説に続くというのもよかったですね。
江里子:やっぱり“おばさん”ひとつとっても、昔で言うならば「オバタリアン」のような、怖いおばちゃん、がめついおばちゃんとか、そういうステレオタイプなおばさん像が多かった中で、そうじゃないおばさん像があるということを、自分たちもちょっとやっていけたらと思いますね。自分たちの中にも、いろんなおばさん像があるし、ほかの人にもそれぞれあって、それを観察して、心にとめていって表現して、「そうよねそうよね」って言ってもらったり、おばさんにも、いろんなタイプの人がいるんだってことも広がっていけば、認知されていけばと思いますね……て、真面目なことを言っちゃった!
――いや、インタビューなので、それでぜんぜんいいんです(笑)。めちゃめちゃいいこと言ってくださって。
美穂:地味おばさんもたくさんいるもんね。
江里子:そうね。地味だったりマイナーおばさんだったり、そうものに、みなさん意外と共感してくれるから。みなさんの中にも、そういう思いがあったんでしょうね。
美穂:そういうの発掘できたらいいね。
江里子:地味なおばさんもいれば、激しくないおばさんもいるのよってことをね。
美穂:大阪のおばちゃんが全員、トラ柄を着てるわけでもないでしょうしね。
江里子:大阪にも、地味なおばさんもおらっしゃるでしょうし。トラ柄のおばさんにも、いろんな部分があるでしょうし。小花のハンカチを持ってるかもしれないし。
美穂:いろんなおばさんの一面が見つけられたらいいね。
江里子:おばさんの多様性。そうね、これからもおばさんの多様性を見つけていけたらいいですね。
■阿佐ヶ谷姉妹
姉・渡辺江里子(1972年7月15日 栃木県出身)、妹・木村美穂(1973年11月15日 神奈川県出身)からなる2人組劇団東京乾電池研究所にて知り合い、以降旧知を深める。 2007年10月、お笑いライブ出演をきっかけに正式にコンビ結成。以来、さまざまなバラエティ番組で活躍している。