『555』では、仮面ライダーの醍醐味のひとつである「変身」にも刺激的な要素を加えている。『クウガ』や『アギト』は変身者の体内に秘められた力によって変身ベルトが現出するという設定であり、『龍騎』の場合は「カードデッキ」を鏡にかざすと、変身ベルトが腰の部分に自動的に巻かれるシステムだった。しかし『555』ではオルフェノクを支援する巨大企業・スマートブレイン社が開発した「ファイズギア」なるアイテムセットが別個にあり、これを物理的に装着しないと変身者はファイズに変身することができないのだ。それゆえ、巧がオルフェノクに遭遇したときでもファイズギアを持っていなかった場合、ファイズに変身できずピンチに陥るという、リアリズムを突き詰めた演出がたびたび見られた。
ファイズギアのうち、変身に必要なのはベルトの「ファイズドライバー」と、携帯電話「ファイズフォン」であり、腰にファイズドライバーを巻いた状態でファイズフォンのキーを「5」「5」「5」と押し、バックル部分に装填すると「COMPLETE」という音声と共に赤い光が身体全体に走り、ファイズへの変身が完了する。
『555』放送当時、携帯電話は「折りたたみ式」のスタイルが流行しており、ファイズフォンもそれにならったデザインが試みられている。どちらかというと携帯電話=ビジネスで大人が使用するツール、という認識が強かった時期ゆえ、子どもたちがふだん触ることのできない「憧れのアイテム」を手に取ることのできるファイズフォンは好評を博し、劇中と同じ音声と発光ギミックを備えた玩具商品も大ヒットした。
また、仮面ライダーになくてはならないツールとして「オートバイ」があるが、本作ではバイクの状態からロボットへと変形してファイズの戦いをサポートする「オートバジン」が登場。その斬新な変形ギミックとスタイルの精悍さが子どもたちを魅了した。
本作で見られたユニークな設定としては、ファイズに変身できる者が巧だけでなく、ある特定の条件を満たした者なら誰でもファイズになることができる、というものがある。巧はファイズに変身してオルフェノクと互角以上に戦う戦闘能力を得ることができるが、ファイズギアをオルフェノクに奪われてしまうと、たちまちファイズが人間にとっての恐ろしい「敵」になってしまう。かつて『仮面ライダーアギト』(2001年)で、アギトである津上翔一がG3-Xの装着者になるというイレギュラーな描写こそあったが、基本的にライダーへの変身者が固定されていたこれまでの作品と違い、本作では「仮面ライダーの変身者が必ずしも1人だけではない」という斬新な設定をフルに生かして、いっそうスリリングな展開が繰り広げられることになった。
普通の人間ではファイズドライバーに「ERROR」が生じて弾き飛ばされるのに、どうして巧が変身することができるのかという"謎"の部分は、第34話の衝撃的なシチュエーションにおいて明らかとされた。
第13話より、真理の幼なじみである草加雅人が登場。彼は、装着した者がことごとく死を迎えるという呪われたベルト「カイザギア(カイザドライバー+カイザフォン)」を難なく装着して仮面ライダーカイザに変身を完了し、ファイズを圧倒する強さでオルフェノクを倒していく。初登場時は何をするにも完璧にこなすさわやかな好青年という印象だった草加だが、実は非常に腹黒い性格で、人によって態度を変えるクセの強い人物だった。せっかく意気投合しかけていた巧と勇治の関係を虚言によって壊すなど、草加の言動が原因となって、人間関係がどんどんこじれていくことも多く見られた。
カイザとしてオルフェノクを倒すその姿はまさしく「ヒーロー」であるが、その内面に少なからずダーティなものを秘めているという草加のキャラクターは『555』のドラマをかきまわす存在として重要で、草加が巧や勇治と対立することによって、互いの魅力が膨らんでいく結果となった。
第26話からは、第3のライダー・仮面ライダーデルタが登場する。デルタギアは変身者を攻撃的な性格に変え、精神崩壊させる危険なベルトだった。さまざまな人物がベルトを装着したものの、戦いを拒み続けた優しい性格の三原修二(演:原田篤)が最終的にデルタの変身者となる。第40話では、お互いを信頼しているわけではない状態ながら、ファイズ、カイザ、デルタの3人がそろい踏みを果たし、上級オルフェノク・ラッキークローバーを相手に壮絶な戦いを繰り広げた。
平成仮面ライダーとしては3作目となる「夏の劇場版」は、『仮面ライダー555(ファイズ)パラダイス・ロスト』と題され、テレビシリーズとは切り離された独自の設定と世界観で製作(2003年8月16日公開)された。舞台はオルフェノクが世界を支配している世界。わずかに残る人類は生き残りをかけて、巨大企業スマートブレインに攻撃を仕掛けようとする。本作には、仮面ライダーサイガ、仮面ライダーオーガという映画オリジナルの仮面ライダーが登場。さらには、宣伝文句で「1万人ライダー部隊」と謳われた"量産型ライダー"というべき「ライオトルーパー」が話題を集めた。クライマックスを飾る闘技場でのライダーバトルでは、一般募集によるエキストラ(全員オルフェノクという設定)をなんと1万人も動員。これは各媒体で大きなニュースとなり、平成仮面ライダーシリーズの人気の高さを世に知らしめた。
1年間にわたって、人間とオルフェノクの激しい"戦い"を描いてきた『仮面ライダー555』。それぞれの人生を全力で生きた愛すべきキャラクターたちの魅力は今もなお色あせず、ファンの心の中に残り続けているに違いない。
メカニックを強調した斬新なヒーローアクションと、ヒーローと怪人を均等のウエイトで描いた入念なドラマ作りで好評を博した『仮面ライダー555』によって、平成仮面ライダーはいよいよ長期シリーズ化への道を着実に進んでいく。次回は『仮面ライダー剣(ブレイド)』(2004年)を取り上げ、人気シリーズとして世間に浸透した「仮面ライダー」が次なる方向性をいかにして探っていったか、について語ってみたい。
映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』は2018年12月22日(土)より公開される。
(C)石森プロ・東映
「ジオウ&ビルド」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映