"器"は関係性の中にしかない

成河:やっぱ、二人芝居って関係性だから。この後、役柄についてお聞きになる予定かもしれないですけど!(笑)

福士:嘘だ、聞かないよ! 僕らのこと、好きな食べ物から聞くと思うよ!(笑) ……で、役柄についてですかね?(笑)

成河:当然くるだろ!

――じゃあ役柄について……(笑) 登場人物は“私”と”彼”の2人しかいませんが、今の役を取っ払って、どちらをやってみたい、といった希望などはありますか?

福士:”私”も楽しそうですよね。歌も大変、表現も難しいけれど、どちらの役でも役者冥利につきる。「面白い役だから楽しかった」という感想は絶対出るはず。僕はエキストラからやっていますから、物語を担う役をいただけて嬉しいし、どちらも面白いなと思います。

成河:公演中に勝手に役を替えるから! 俺ら、バレないから!(笑)。

福士:千秋楽の次の日あたりに勝手に小屋を押さえておこう(笑)。怖いけど、面白いね。

成河:僕は、とにかく関係性だと思うんですよね。だから、どの役でもどんな関係性を作るのかが、大切だと思っているんです。でも、今日1日いて、福士くんと僕の間にあるものが、ひとかけら、わかったような気もします。言葉にはならないけど、そういうパーツがたくさん集まると楽しいと思います。

福士:こうやって1日中取材を受けると、引き出しができたような気がする。まだ空っぽだけど、私と彼の間なのか、僕と成河くんの間なのか、「何かができた」というのはすごく感じられました。

――少し、イメージできたということですか?

成河:あ、そういう言い方したらダメですよ。今、福士くんが良い言い方したから。この2人の間に、入れるべき箱ができた、ということなんです。イメージは、まだ一個もない。

福士:器、くらいだね。

成河:前提にも達してないけど、そういう過程が、やっぱり役者の醍醐味なんです。

福士:器ができて、1ピース埋まったから、千秋楽までに全部できる! ということでもない。

成河:これは良い話ですよ、演技論の! 役者ってどうしても、自分の頭の中に器を作ってしまいがちだし、台本と接するようになってしまう。でも、本当はその器は2人の間にしかなくて、相手がいなければ成り立たないんです。2人の間の器の輪郭を考えて、「こんな形とこんな色をしているなら、だったらこれを入れようかな?」という作業があるんです。2人の間に器が見つかるのが、面白い。……すごいね、僕もたとえが大好きなんだけど、福士くんもバンバンたとえてくれる。栗山(民也)さんの前でたとえ合戦ですよ(笑)。

福士:2人で一つの器がないといけないし、栗山さんとの器もなきゃいけないし、3人での器も、スリル・ミーというでかい器もあったり。そのエッセンスは、稽古という重要な期間で探っていきます。

――成河さんは、『エリザベート』でも小池修一郎先生を質問攻めに……というお話でしたが、今回もどんどん聞いていく、という感じでしょうか。

成河:僕は劇団出身で、延々と話し合いながらやっていた方なので、稽古場で演出家に何もきかないという習慣は、馴染みがないんです。今回も翻訳劇ですし、いろいろ聞かないと。だいたい翻訳劇は、翻訳した時点である種の解釈が入ってくるわけですし。

福士:「そのニュアンスってありですか?」ということですよね。

成河:語尾一つとっても「ないんですよ」「ないんだよ」「ないんだよね〜」……これでも英語では全部一緒で、日本語にした時点でニュアンスが生まれるから、そこを一行一行、やっていきたいです。自分にとって、なじみの良い言葉がありますし、そうやって2チームの雰囲気も変わっていくと思います。

福士:これは、決まりましたね。我々は『スリル・ミー』大阪バージョンで。

――関西弁ですか!?

福士:「誘拐だ!」と言ったら、「おま、あかんでそれはほんま!」。

成河:他言語ミュージカルだ(笑)。僕は韓国語も入れようかな。

福士:「ナイフって、おま、なんでやねん!」テンポ感が変わっちゃう(笑)。

成河:「はいどうも〜」って(笑)。まあでも、稽古場でも恥をかきながらやっていきたいよね。40歳になっても50歳になっても「生意気なこと言いやがって」と思われるような立場でいたい。

福士:疑問を残しておくとあまり良くないことになるし。まあ、疑問のままにしておきたいところもありますけどね。「わからないで演じられるの?」と言われても、けっきょく人間だってわからないで生きてるから。

成河:最近、そういう時にどういう風に返したらいいのかわかったよ! 「わかりたいから、やっているんです」。

福士:じゃあ、「早くわかれよ」ってなるかもしれないけどね(笑)