後編は北川景子の芝居に注目
――今回、監督が堀切園健太郎さんになったという経緯は。
堀切園さんは、『ハゲタカ』や『外事警察』、NHKスペシャルの『未解決事件file05 ロッキード事件』なんかも監督されていて、すごく取材もされるし、リアリティにこだわる方なんです。今回のドラマはユーモアを交えながらも、基本はリアリティベースで、サスペンス色が強くなるだろうと考え、野木さんと相談してオファーさせて頂きました。堀切園さんも最近は、『スニッファー 嗅覚捜査官』でエンターテイメント色の強いドラマも演出されていたので、今回はその腕を存分に活かして頂いたと思います。野木さんも仕上がりを見て喜ばれていました。
――ドラマがコミカルになった要因のひとつに、光石さんの演じた役も大きいかと思いました。
記者会見でも野木さんが少し話されていましたが、最初は、光石さん演じる中年男性が主人公ということも考えていたんです。加害者から被害者になっていくという設定で、おじさんがフェイクニュース騒動に巻き込まれていくコメディですね。
――韓国映画の『タクシー運転手 約束は海を越えて』なんかも、おじさんが巻き込まれるコメディであり、社会性のある話でしたしね。
素晴らしい映画ですよね。韓国映画は自国の負の歴史もきちんと描くのがさすがだなと思います。光石さんはものすごく魅力的なお芝居をされる唯一無二の役者さんなので、前編は特に光石さんのコミカルなお芝居に注目してご覧いただけたらと思います。後編は北川さん演じる主人公・樹の話にもちろんなっていくので、北川さん演じる樹の悩み、苦しみ、心が揺れる瞬間のお芝居にも注目して見てもらえたらと。
社会問題に踏み込みたい
――『宮崎のふたり』では、自分で監督もされたりしてたわけですけど、そのときと、今回、東京でドラマのプロデューサーをしてみての違いはありましたか?
自分の企画だったので、今回は同じ感覚でしたね。企画書を作って、脚本をお願いして、取材して、キャスティングして、放送までのいろんなことを全体的に見て、最後の仕上げまでもっていくという過程は、予算規模が大きくなったこと以外は一緒だなと思いました。ドラマとドキュメンタリーを比べたときに大きく違うのは、ドキュメンタリーだと、取材して編集して世に出すまでを、ほとんど一人か少人数でやることが多いわけですけど、ドラマは自分の思いを作家さんや俳優部の方々、大勢のスタッフがふくらませて広げてくれるから楽しいですよね。その分、責任も大きいですが。
――やっぱり、そこで伝えたいことが北野さんと野木さんの間で共有されていたことは大きいですよね。
あまりよくないことだとは思うんですけど、やっぱり社会的な問題に踏み込みたいとか、テーマ主義的なところが僕にはあって、フェイクニュースを描くのであれば、野木さんとやりたいということがありました。野木さんは過去の作品を見ても、社会に対して言いたいことがある人だと思ったので、そこは通じるところがあるなと。基本的には、この企画ならこの人という風に、テーマによっていろんな方とやりたいという気持ちがあるんです。この企画は野木さん以外とはできないものだと思うので、野木さんとやれて本当によかったですね。
――ちなみに北野さんがフェイクニュースに興味を持ったきっかけというと。
僕は記者をやっていたことがあるので、他人事みたいには言えないのですが、マスメディア自身の責任ももちろんあり、“誰もが信じたいものを信じる時代”になっていると感じました。次々と真偽不明の情報が世界中に発信され、“嘘が事実に、事実が嘘に”なっていくと、最低限の事実が共有できないから議論できなくなっていきますよね。それで過激な意見が増え、賛成か反対か、善か悪か、極端な方へと二極化していく危機感を感じていました。新人時代に沖縄放送局に勤務していたのですが、その頃よりも、ヘイトが強くなっているし、差別的なことを言っても構わないという空気が蔓延していて、フェイクニュースによって分断が起きているのではないかと。
――それは野木さんも言われてましたね。世の中の分断をテーマにしたかったと。
そういうことを描きたいと思ったときに、野木さんならすべて答えてくれるのではないかと思いました。一つ間違うと説教くさくなる小難しい題材を見事にエンターテインメントドラマに昇華してくださったと思います。こういう形のエンターテイメントドラマも世の中には必要だと思うので、この『フェイクニュース』が一つの試金石になってくれるといいなと思いますね。