鏡の中に棲み、各ライダーに「戦い」を強制する謎の男・神崎士郎(演:菊地謙三郎)は、なかなか進まないライダーバトルのペースを上げるべく、凶悪犯罪者・浅倉威(演:萩野崇)を仮面ライダー王蛇としてミラーワールドに送り込んだ。常にイライラを抱え、あらゆるものを"敵"とみなす凶暴な王蛇は、すべてのライダーにとって恐るべき相手となった。

一方、ライダーバトルを"止めたい"と願う占い師・仮面ライダーライア/手塚海之(演:高野八誠)も登場し、真司にとって大きな希望となる。このように、善悪さまざまな個性を備えた仮面ライダーが次々に登場してしのぎを削るストーリー展開は実にスリリングで、ファンの間では「次はどんなライダーが出てくるのか」あるいは「どのライダーが脱落(死亡)するのか」という話題で盛り上がった。第26話からは、勝ち残った仮面ライダーが最後に対戦するべき"13番目のライダー"仮面ライダーオーディンが登場し、その圧倒的ともいえる強さに龍騎たちが戦慄する場面が見られた。

番組が中盤を迎える8月17日には、前年の『アギト』の好評を受け継ぐかたちで、「夏の劇場版」が公開されることになった。『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』と題されたこの映画はテレビ放送に先がけて「最終回」を見せるという触れ込みで、多くのファンに強烈なインパクトを与えた。

同じく『アギト』から引き継いだ企画として、ゴールデンタイム(夜7時)の1時間テレビスペシャルも9月19日に放送。『仮面ライダー龍騎スペシャル 13RIDERS』と題したこのスペシャル番組では、日曜朝に放送しているテレビシリーズとは別個の独立したストーリーとなり、「戦いを続ける」「戦いを止める」という2種類のラストシーンを視聴者からの電話投票(テレゴング)によって決定するという、当時としては画期的な放送スタイルを採り、話題を集めた。

劇場版では初の女性ライダー・仮面ライダーファム/霧島美穂(演:加藤夏希)、謎の仮面ライダーリュウガという2人のライダーが真司や蓮、北岡、浅倉と共に物語を引っ張り、テレビスペシャルでは仮面ライダーベルデ/高見沢逸郎(演:黒田アーサー)が真司の強大な敵として立ちはだかった。スペシャルではベルデ、ファム、リュウガのほかに、今後のテレビシリーズに登場する予定の仮面ライダーインペラー、仮面ライダータイガも先行して姿を見せるというサービスまで行われている。

後半エピソードでは、ライダー同士の戦いがますます激しくなり、明るく元気な性格だった真司からどんどん笑顔がなくなっていくほどの、シリアスな展開が増えてくる。そんな中、ミラーワールドとカードデッキを分析し、疑似ライダーといえるオルタナティブ・ゼロに変身を果たした大学教授・香川英行(演:神保悟志)という印象的なキャラクターも登場。香川の教え子で、歪んだ英雄願望を持つ仮面ライダータイガ/東條悟(演:高槻純)や、自分の欲望に忠実で、他人を裏切ることに何の抵抗もない青年・仮面ライダーインペラー/佐野満(演:日向崇)の2人も、それぞれショッキングな最期を遂げたこともあり、強い印象を残した。

最終エピソード(第48~50話)では、ついにライダーバトル最後の1人が決定し、その願いが叶えられる瞬間がやってきた。終幕に向けて、真司、蓮、北岡、浅倉、そして神崎士郎・優衣の兄妹に訪れるそれぞれの"最期"のドラマは、どれも視聴者の心に重くのしかかってくるものばかりであった。特に、幾度となく強敵との戦いを共にし、時には技の限りを尽くして戦い合った真司と蓮が"別れ"の際にかわした会話からは、2人の強い友情を感じることができ、何度見返しても落涙を禁じ得ない。まったく立場の異なる若者同士が"戦い"を通じて心を通わせる「友情」のドラマも、『仮面ライダー龍騎』という作品を語る上で外せない要素ではないだろうか。『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』や『仮面ライダー龍騎スペシャル 13RIDERS』の"結末"をも取り込んだテレビシリーズの最終回は、まさしく"真の最終回"といって間違いのないクロージングを迎える。過酷な戦いを繰り広げてきた真司たち仮面ライダーに「戦いのない"別の"世界」での生活が与えられ、こちらもまた深い感動を視聴者にもたらした。

仮面ライダーから「正義のヒーロー」といった要素を排除し、各々の"願い"を叶えるため争い合う戦士という位置づけで作られた『仮面ライダー龍騎』は、「仮面ライダー」シリーズだけでなく「特撮変身ヒーロー」ジャンルそのものに多大な衝撃を与えた。「特撮変身ヒーロー」というフォーマットを用いて語ることのできる「テーマ」の幅を、従来以上に広げる"可能性"を示した『仮面ライダー龍騎』という作品は、これからも多くの人々に愛され、語り継がれていくに違いない。

『仮面ライダー龍騎』によって「仮面ライダー」というキャラクターの可能性は大きく広がったが、これに続く平成仮面ライダーシリーズ『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)では、改めて「仮面ライダーとは何か」という"原点"を見つめ直しつつ、さらなる意外性に満ちた野心的な作品作りが行なわれた。このことは次回『仮面ライダー555』編にて詳しく語ってみたい。

映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』は2018年12月22日(土)より公開される。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

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