愛知県とJRグループによる大型観光キャンペーン「愛知デスティネーションキャンペーン」(愛知DC)が10月1日からスタート。12月31日まで3カ月間にわたり開催される。今回の愛知DCでは、高速鉄道と自動車産業を中心とした世界を牽引する最先端テクノロジー、歴史の中で培われたものづくり文化、徳川幕府の礎を築き、泰平の世を生み出した歴史遺産、そして愛知県の個性豊かな食文化に着目し、観光客を誘致しようとしている。
「三英傑」とも呼ばれる織田信長、豊臣秀吉、徳川家康をはじめ、近世から近代にかけて日本の礎を築いたのは愛知県であり、豊かな産業が生まれ、いまなお好景気の地として日本全国から人が集まっている。東京からは東海道新幹線で1時間40分程度、リニア中央新幹線が開業すれば、品川~名古屋間は約40分で結ばれるそうだ。今回は「未来クリエイター愛知 ~想像を超える旅へ。~」をキャッチフレーズに開催される愛知DCの見所を探るべく、JR東海主催のプレスツアーに参加することにした。
東海道新幹線「のぞみ」に乗車、名古屋へ
東京駅から乗車した列車は同駅7時20分発「のぞみ205号」。N700Aを使用し、19番線ホームに停車中の列車の16号車(最後尾車両)から乗り込んだ。筆者の指定された座席は通路側のD席。定刻に東京駅を発車した後、山手線・京浜東北線などの通勤列車が並走する様子を見つつ、朝食としてあらかじめ購入していた「朝のおむすび弁当」を食べる。品川駅を出て、武蔵小杉あたりのタワーマンションが建ち並ぶ車窓風景を眺めた後、新横浜駅に停車したところで窓側のE席、つまり筆者の隣席に座る乗客が現れた。
「のぞみ」は新横浜~名古屋間ノンストップ。新横浜駅を発車すると全速力で走り出す。車内販売のワゴンがやって来たところでアイスコーヒーを注文。車窓風景を見ると、住宅街が終わり、工場や倉庫が目立つエリアを走るようになっている。スマートフォンの地図アプリで現在位置を表示させると、いま乗っている「のぞみ」が凄まじいスピードで移動しているとわかる。
新丹那トンネルを過ぎて静岡県内に入ると、右手には富士山が。途中駅を通過するたび、車内の電光掲示板に通過した駅の案内が流れる。静岡駅通過後に全速力で茶畑の中を走り、浜松駅通過後に浜名湖を眺めながら、いよいよ列車は愛知県内へ。三河安城駅通過後、「次の名古屋まであと9分」の車内アナウンスがあり、名古屋への期待感が高まる。少しずつ速度を落とし、荷物を持って席を立つ。「のぞみ205号」は8時59分、名古屋駅に到着。待ち構えたかのように降りていく多くの乗客とともに、筆者もホームに立った。
東海道新幹線「のぞみ」はやはり速い。今後、2020年度にはN700系・N700Aに続く新型車両N700Sの営業投入も予定されている。2027年度(予定)といわれるリニア中央新幹線の開業も待ち遠しい。品川駅から名古屋駅まで約40分で結ばれたとき、日本の大動脈である東京~名古屋~新大阪間の移動にどのような変化が生じるのか。そしてリニア中央新幹線開業後の東海道新幹線がどのように変貌するか、気になるところでもある。
大名道具がそのまま残る徳川美術館
名古屋駅に集合すると、まずは徳川美術館へ。徳川美術館は侯爵徳川義親の寄贈により、尾張徳川家の「大名道具」が展示されている。甲冑や刀剣が実際に使用されていた頃のまま展示され、名古屋城の書院造りや能舞台を再現。尾張徳川家が生活で使用していた道具類には目を引くものが多い。
特別展としては、「もじえもじ」として文字と絵画の知的な美を紹介。11月3日から「源氏物語の世界 王朝の恋物語」と題し、国宝「源氏物語絵巻」を公開するという。
隣接する蓬左文庫では、「尾張藩邸物語」と題した特別展が行われ、尾張徳川家の屋敷の大きな図面などが展示された。こちらも11月3日から「徳川慶勝の明治維新」として、尾張徳川家14代当主・徳川慶勝の幕末・維新期を紹介し、多く残した写真も展示する。
愛知県の豊かな食文化を堪能
続いてバスに乗り、知多半島道路を南へ。碧南市にある七福醸造の工場「ありがとうの里」へ向かった。
七福醸造は白だしを初めて開発し、白しょうゆの製造元としても有名。白しょうゆは料亭などで使用される、小麦と大豆の割合が9:1で小麦のほうが多いしょうゆのことである。七福醸造は日本で唯一、有機白しょうゆを製造するメーカーだという。これにだしを加えた白だしには、枕崎の鰹節、大分のどんこ、利尻昆布が使用され、味は上質である。
昼食は「日本料理 一灯」。愛知県の食材をふんだんに使用した懐石料理は、農業県愛知の恵みを感じさせ、体に溶け込むように美味しさが浸透していく。
食後訪れた「半田赤レンガ建物」は、愛知県人のベンチャースピリットを感じさせる建物である。大手ビールメーカーに負けないビールを作ろうと、愛知県人がビール会社を創業し、「カブトビール」として製造・販売した。赤レンガ建物を設計した人物は、明治建築界の三巨匠の1人、妻木頼黄。安定した温度・湿度が必要なビール工場として、中空構造を持つ壁や多重アーチ床、高い天井など特徴的な建物となっている。「カブトビール」は別の工場で復刻版がつくられ、施設内で販売されている。
その後は同じ半田市内にある「ミツカンミュージアム」へ。運河に隣接する施設では、かつての酢造りの様子や、酢を中心とした食文化が紹介されている。運河からは船で江戸へ酢が出荷され、江戸前寿司に使われたとのこと。