映画監督はおすすめの仕事?

――そんな阿部さんへ食らいついていく、吉岡さんと千葉さんはいかがでしたか?

吉岡さんは、全体が作り出すアクションに対して、無防備な状態で立たなきゃいけないから、役者としては一番つらいチャンネルを使わなきゃいけないわけです。そこを物怖じせずに挑んでくれました。最初から水浴びさせられて、大変なことになってましたけど(笑)。

千葉君は、プロデューサーとも話している中で「色んな事をやってくれそうだな」という印象があってお願いしました。千葉雄大の演じる坂口という役の変化は、物語の一つのバックボーンになってくわけじゃないですか。もしこれが千葉雄大じゃなかったら、やばかった! 成立してなかったかもしれないですね。

また、千葉君の創意工夫が面白いんですよ。「さっきこうしたけど、これはどうですか?」「こっちの方がいいですか?」と、いろいろなアプローチをしてくれるんです。普通はひとつOKが出たらそこに留まっちゃうけど、貪欲に色々試してくるんですよね。

――見た目がかわいらしい千葉さんですが、演技に貪欲なんですね。

昭和の映画には、結構見た目はかわいいけど内面にダークな部分が……という役が結構あったんだけど、そういう悪役をやってほしいです。今回初めて会ったんですけど、日本映画の演技の幅の選択肢が広がると思うくらい、彼のポテンシャルの高さには、ビックリしました。

――これだけ芸達者な方々が揃っているのはすごいですよね。

現場で役者が持っている想像力の戦いが見れる映画監督は、なんて贅沢な仕事なんだろう、と思いますよね。映画監督は、おすすめの仕事です(笑)。

解放される世界の方がいいんじゃないか

――今回、作中で表される「声の小ささ」は、物理的なことだけじゃなくて、「自分の気持ちを外に出せ」というメッセージも感じました。

僕自身がネット世代じゃないということもあるんだけど、「つぶやいてるばかりじゃなくて、でかい声で言ったら?」という気持ちはあります。みんな「周囲がどう思うか」気にしすぎるんじゃないのかな? 人がどう思うかという事を、気にしない時間があってもいいんじゃないかな、って。

――「炎上したくない」という気持ちが……。

炎上上等、くらいで行って欲しい(笑)、ロックなんか不道徳だし、元々はそうだったわけですよね。でも、まがまがしさが縮小していくよりは、広がってそれぞれが自由に解放されていく世界の方が良いと考えていたんじゃないかと、作品を撮ってみて、思いました。

――撮ってみて、ご自身の気持ちに気づかれたということですか?

そうです。意識的な領域は狭くて、結局は無意識の領域の方が広いわけじゃないですか。映画や脚本に無意識の部分が現れていることに気づくと、「あ、ここか」と自分でもびっくりできるし、面白さの一つですよね。

撮影は主観的にやってるけど、客観的に評価する時間に、無意識に気づくのかもしれません。主観的な時間と、主観的にやったことを客観的に評価する時間が必要なのかな。両方の時間を順番にとっていくと、成長するんじゃないかなと思います。何の仕事でも、きっとそうです。宮崎駿さんは「寝るのが1番」と言ってたけど(笑)。人間は、寝てる間に、情報を整理しているらしいですよ。

取材のときも、色々聞かれるから、客観的になれるという点はありますね。聞かれたことに答えてるうちに、キーワードが見つかったり。だから映画のテーマが最初からあるわけじゃなくて、取材が終わった後に見つかることもあるのかもしれないですね。

――テーマを決めて作るのではなく、「これを作りたい」という衝動が先にあり、実は芯が隠れている……というようなことでしょうか?

僕も大学の講義を年に1回やっているんですが、「自分の興味のあったことを、とにかくメモに取ってみなさい」と言うんです。恋愛のことでも、趣味のことでも、なんでもいいから1日1個メモして、365個溜まったものを見ると、「こういう事に興味があるんだな」という線が見えるはずだから。僕自身もそうでしたが、意外と、自分が何に興味があるかは分からないんですよね。映画でも同じようなことがあって、だーっと主観的に自分の好きな事とかやりたい事とか詰め込んでいって、最後に客観的に探してみると、自分の興味の核が出てくるのだと思います。

今回の脚本でも「声が小さい男と、声が小さい女の子が出会って、何が起こるのか?」というところに、思いついた要素をどんどん入れていくんですよ。すると、それが並んだ時に、1本の線みたいなものが見えてきて、芯になりました。自分の興味が表れて、恥ずかしいところもあるけど、かっこ悪いのも含めて、晒して対峙していかなきゃいけない。自分の頭の中を覗かれていくことで、それを映画という形にしていくのだと思います。

■三木聡
1961年、横浜市出身。 大学在学中から放送作家として活動し、『タモリ倶楽部』『トリビアの泉』など、人々の記憶に残る錚々たるTVバラエティ番組を数々手掛け、放送作家として確固たる地位を築く。00年までシティーボーイズのライブの作・演出を担当するなど、幅広いジャンルで活躍。 長編映画監督デビューは2005年の『イン・ザ・プ-ル』。以降、『亀は意外と速く泳ぐ』(05)、『ダメジン』(06)、『転々』(07)、『図鑑に載ってない虫』(07)、『インスタント沼』(09)、『俺俺』(13)などを監督。 またテレビドラマでも、『時効警察』シリーズ(06・07)、『熱海の捜査官』(10)など、オリジナリティ溢れる作品を作り出し、熱狂的なファンを生み出す。