俳優の阿部サダヲが主演を務める映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』が、12日より公開された。「声帯ドーピング」というタブーな方法で驚異の歌声を持つロックスター・シン(阿部)が、異様に声の小さなストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)に出会う。さらに喉の秘密がマスコミにばれ、謎の組織に追われることに……。

どんどん変わっていく展開に、濃いキャラクター、そしてHYDE、いしわたり淳治、あいみょんなど、豪華ミュージシャンが手がけた主題歌・挿入歌が目白押し。この予想もつかないハイテンション・ロック・コメディの脚本・監督を務めた三木聡監督は、一体何を考えていたのか。作品の展開や、音楽、そして監督として思うところなど、インタビューした。

  • 三木聡

    三木聡

ミュージシャンの読解力はすごい

――作品を拝見しましたが、勝手に「芸能界のサクセスストーリーになるのかな?」などと予想していたのとは全然違って、展開が二転三転して驚きました。最初から構想にあったのですか?

大きなストーリーラインはありましたが、実は今以上に複雑な展開でした。プロデューサーから「いい加減にしてください」と注意されて(笑)。ただ、この尺でどれくらいのスピード感で走っていけるか、ということはテーマとしてありました。

――画面の感じも、日本の映画じゃない、ハリウッド映画のような雰囲気もあって。

正直に言うと、少し目指したところもありました。カメラマンの相馬さんとも「三木聡がハリウッド映画を撮ったらどうなるのか」という話をしましたし、音楽も結果的にそうなった、というところはあります。劇伴の上野耕路さんは、ハンス・ジマーとも仕事していた人で、大学で映画音楽の講義もされてるので、すごく綿密に作ってくださった。映像と劇伴にそういうニュアンスを感じていただいたとしたら、嬉しい限りです。

――音楽も、パンクから入っていきつつ、だんだん壮大に広がっていく印象がありました。

1回編集が上がって音楽を作っていく上で、「クラシックのニュアンスが欲しい」とお願いしました。詳しくは知らないけど、ハリウッド映画の劇伴もおそらくバレエ音楽などが、基本になってると思うんです。『ハリー・ポッター』の音楽も多分、『くるみ割り人形』のオマージュだったりするわけじゃないですか。HYDEさんやあいみょんさん、錚々たるロックフェス並みの方に参加してもらっている中で、間をつないでいく劇伴をどう構築しようかということには、2カ月くらいかけました。

ミュージシャンの方たちの読解力には、ずいぶん助けられましたよ。情感やパッションが大事なのかな、と思っていたのですが、芝居に対する面白い読解力を持っていてくれて、フルに発揮した音楽を提供いただいたと思います。

グループ魂とは違うものに

――阿部さんと吉岡さんのヴォーカルもすごく生きていましたよね。

吉岡さんも忙しいんだけど、ボイストレーニングからギターの練習まで、すごく頑張ってくださった。阿部さんは元々ミュージシャンとして立っているのもあるんだけど、”グループ魂感”は出さずにいきたいとは言っていました。同じことになっちゃうと、意味がないから。

――カリスマスター役ですもんね。

そうそう、カリスマスターだし、スリッパとか使えないし(笑)。実は最初のライブのシーンは最終日に撮影したんですが、そこで阿部さんのパフォーマンス、そしてKenKenさん、PABLOさん、SATOKOさんの演奏を見て、「あ、これがピースだ!」と、はまった感覚がありました。その日は撮休だった吉岡さんも観に来て、「阿部さん、すごい」と言っていました。だから、お客さんにもこの映画を体験してもらえたら嬉しいです。

――大河ドラマの主役も決まっている阿部さんが振り切っている感じ、印象はいかがでしたか?

元々、こっちじゃないですか(笑)。プロデューサーに脚本を見せて「主役、誰ですかね?」という話になったら、7秒後に「阿部サダヲ以外ない」という結論に達しました。そこは最初から最後まで、一切動きませんでしたね。「日本どころじゃない、環太平洋を探しても阿部サダヲしかいないでしょ」って。

全方位的に芝居しなきゃいけないし、ミュージシャンとしても立たなきゃいけない。狂気の部分もなきゃいけないし、ドラマの部分も背負わなきゃいけないし、松尾スズキさんや田中哲司さんという様々なキャラとも対峙して、しまいにはあまり内容を理解していない小峠さんとも対峙する(笑)。これが出来る人って、あんまりいないですよね。