文部科学大臣表彰を受賞した鹿児島県立国分高校の研究成果
16年目にあたる今年、研究発表会に参加したSSH指定校及びSSH経験校計208校、海外11カ国・地域からの招聘校26校の中から文部科学大臣表彰を受賞したのは、鹿児島県立国分高等学校の「幸屋火砕流の影響から7300年立ち直れていない?~大隈諸島のエンマコガネと幸屋火砕流の関係~」。高校生らしい発想の中で自ら現地に足を運んできちんと観察・実験を行っている点や、生物としての系統樹への貢献につながる研究に仕上げられ、水準の高い研究成果にもなっている点が高く評価された。
「幸屋火砕流という周囲の環境や生態系に壊滅的なダメージを与えた自然災害に着目し、先に先輩たちが研究していた内容の軸に沿って、今回は、エンマコガネという屋久島固有種の昆虫で研究を行いました」と、鹿児島県立国分高等学校3年の牧瀬桃香(まきせももか)さん。「自分たちで島にいって、自分たちで収集して考えて、まとめたことが評価されて嬉しい」とは、3年の永田梨奈(ながたりな)さん。「火砕流は地学的な観点から捉えられがちだけれども、生物学的なアプローチからも火砕流について突き詰めていけることできて面白いと思った。今後は、化石や繁殖実験など、後輩たちが自分たちの研究を引き継いで、もっと発展していってくれたら」(永田さん)と、今後の継続研究にも期待を寄せる。
科学技術振興機構理事長賞には2件が選出
科学技術振興機構理事長賞には、福島県立福島高等学校の「プラズマによる流体制御の研究」と名古屋市立向陽高等学校の「ユリの花粉管誘導II~誘導を無視して伸びる花粉管の謎~」の2件が選ばれた。
福島県立福島高等学校の「プラズマによる流体制御の研究」は、流体制御デバイスのプラズマアクチュエーターを用い、風車周辺の流体の流れを制御することで、風力発電において課題となっている発電効率、安定供給の低さの一因となる流体の剥離抑制を目指したもの。「福島県では再生可能エネルギーを用いた発電と研究が進められています。ただし風力発電は発電効率が安定しないため、普及が太陽光パネルほど進んでいません。僕たちは、この課題解決に向けて、もともと研究してきたプラズマを風力発電にどう応用すれば社会の中で生かすことできるのか、研究を進めています。今回は基礎的な実験をしたので、今後は、実際の発電電力にどう影響するのかを調べ、風車の普及に向けても検証したいと思っています」(福島県立福島高等学校・参加男子生徒)。
また名古屋市立向陽高等学校の「ユリの花粉管誘導II~誘導を無視して伸びる花粉管の謎~」は、昨年度の研究を引き継ぎ、ユリの花粉管が、花粉管誘導物質が分泌される柱頭から花柱上部の誘引領域に留まらず、花柱の中空部を通り抜けて胚芽に到達することができるのかについて、内容をさらに発展させ実験・考察を繰り返し、新たな結論を導き出している。「今までの実験で、結果をまとめることができたけれども、もっと回数を繰り返して数字を確実にしたかった部分もあるし、今まで記録してきたなかで、今回の研究目的とは直接関係がないからそのままにしてきた実験も沢山あります。今後はそれについて調べたり、質疑応答で質問もあったユリの誘引物質が本当にたんぱく質なのかどうか証明できる実験をしてみたいです」(名古屋市立向陽高等学校・参加女子生徒)。
審査委員長賞には3件が選出
また審査委員長賞には、東京都立小石川中等教育学校の「スライムを用いた偏光フィルムの作製」、千葉県立船橋高等学校の「ブレスレットモデルを用いたルカ数列の拡張」、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校の「地球影 ~誰彼刻を追ふ~」の3件が選ばれた。
東京都立小石川中等教育学校の「スライムを用いた偏光フィルムの作製」は、PVA洗濯糊から作ったスライムを原料に、液晶パネル等で使われている偏光フィルムを作製する最適条件を明らかにしたもの。「文化祭で小学生向けの実験教室をしました。そこでは小学生に人気のスライムをPVA洗濯糊で作りました。科学を勉強していく中で偏光フィルムがPVAであることを知り、スライムでも偏光フィルムが作れるのではないかと思ったのが研究を始めたきっかけです。高い器具を使った大学の研究にはかなわないけれど、所属する科学部全体の中にある"高校の実験室でできる創意工夫をこらした研究"を、という空気の中で生まれた研究です」(東京都立小石川中等教育学校・男子生徒)。
千葉県立船橋高等学校の「ブレスレットモデルを用いたルカ数列の拡張」は、黒と白の2色のビーズn個からなる1重のブレスレットにおいて、黒ビーズ同士が隣り合わないようにする作り方の数がルカ数列の第n項Lnと一致することで知られている先行研究を、ブレスレットモデルをm重にした場合、ルカ数列と同様の性質が見られるのかを考え、深めたもの。「今回の研究では、2重3重の場合を考えようとした時、すごく複雑になってしまうのかなと思ったら、案外簡単な発想やモデルを使って証明することができました。こういう思いがけない面白さが数学にはあると思います」(千葉県立船橋高等学校・女子生徒)。
横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校の「地球影 ~誰彼刻を追ふ~」は、地球の影が大気に投影されて見える地球影と夕焼けと同様に大気で散乱され赤くなった太陽光が約12~50キロの大気を照らしていると言われているビーナスベルトという現象について、独自の手法により解明を試みたもの。「夕暮れ時に見えた青い帯が地球の影らしいということを知って調べてみたけれども、影だという根拠が見つからず、また地球影の解明を主題とした参考文献も見当たりませんでした。だったら数学が好きなので、数学でなんとかならないかと思ったのがきっかけです。またこの研究をきっかけに、目の前にある出来事を数式で表す現象数理分野に興味をもったので、今後はそちらに進みたいと思っています。同じテーマそのままではなくても、この研究を通じて学んだことを現象数理分野で活用できたらなと思っています」(横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校・女子生徒)。