――ここまでキャラクターのことを中心にうかがってきましたが、本作はデジタルを用いたアニメーション制作をされているのも特徴だと思います。

新井:今回は初めての長編アニメーションということもあり、今までとは作品に関わる人数が数倍になって。『台風のノルダ』のときよりもデジタルで完結できればいいなと言っていましたが、結局今回もすべてをデジタルで作業することは叶いませんでした。そういう意味では課題も多くあったかと思います。

――デジタルで完結できなかったというお話ですが、石田監督にお話をうかがった際にアナログ(紙)とデジタルが混在したことの難しさについて言葉にされていました。実作業を担当していた皆さんはどう感じられましたか?

新井:ディレクター陣は混在していることによってアナログもデジタルも両方チェックしないといけなくなります。しかも、デジタルはアニメーションを作る人間が使用するソフトが違えばその数だけ使い方を覚えないといけない。今回も4つほどのソフトを使用しました。

永江:僕はスタジオコロリドに入ってから本格的にデジタルのアニメーション制作に取り組んだので、とにかくなじませるのに必死でした。ソフトに関しては基本操作は同じですが、それぞれ特徴が微妙に異なるんです。短時間で集中して自分の身にしみ込ませたのですが、疲れましたね(笑)。

加藤:この作品が始まった頃、実は「CLIP STUDIO PAINT」というソフトでやれないかと検証したんですよ。でも結局別のソフトになり、後半はさらに別のソフトでも作業することになって。仕様がどんどん加わったり、変わったりしてしまったのが大変でしたね。最初からどれを使うのか統一されていれば、もう少し効率的だったかもしれません。

新井:デジタルでのアニメーション制作に関しては業界標準がないんですよね。何がベストなのかということを業界もまだきっとわかっていない。本作の制作に関しても分かっていないままスタートしたので、模索しながらやらないといけませんでした。

――ここまでデジタル制作の難しさをお話いただきました。ではデジタルで制作するメリットは?

新井:動きがすぐに見られるというメリットは大きいと思います。あとはまだまだ実現できていない部分はありますが、物理的な"もの"が発生しないので、直でデータのやり取りができるという生かし方もあると思いますね。

永江:僕も結果をすぐに表示できるのがメリットだと思いますね。紙だと想像しながらタイミングを打ちます。チェッカーというものでプレビューができますが、それはすごく手間がかかるんですよね。対してデジタルで制作した場合は、コマをすぐに調整できます。それによってタイミングの感覚も身につくと思うんですよ。あとは位置をずらしたり戻したりが簡単にできる点ですね。紙だと一度描いたら消しゴムで消さないといけないので。

加藤:私は自由変形できるのもメリットだと思います。

新井:確かに。顔などパーツをちょっとだけ大きくしたいとき、デジタルだと簡単にできるんですよ。

永江:パーツだけ切り取って描き直すことができるのは、作業効率としてはよいと思います。

新井:本作でも使用した「TVPaint」というソフトにはスタンプという機能があって、大体同じ絵であればそれをコピー&ペーストして調整しながら描く、というやり方もできます。

永江:デジタルを使うようになってからはコピー&ペーストを多用しています。これは効率という点でもメリットですし、絵が崩れないという利点もあるかと思います。紙で絵を崩さないようにするにはある程度の技術が必要です。だから、繊細な作業をするときにデジタルは強いんじゃないかなと思います。

――永江さんはもともと紙で作画されていたとうかがいました。デジタル制作に移行してから衝撃を受けたことはございますか?

永江:以前は他のスタジオで紙を使って作画の仕事をしていたのですが、実はすでに当時の作品の総作画監督さんがデジタルを使用していたんですよ。その方が引き写しをガンガンやっていたのを見ていたので衝撃はあまりなかったですね。ただ自分がやるとなったときの負荷が少なくなったのには驚きました。

――なるほど。加藤さんはいかがですか?

加藤:私は石田さんが学生時代に作られた作品を見てきた世代だったので、最初からデジタルを使うことに抵抗はなかったし、使ってもいたんです。逆にスタジオコロリドに入社してから紙で作画することが増えて。その時に気づいたのは、長いパンのカットなどが紙だと圧倒的にやりにくいということです。単純に長さが畳くらいになっちゃうんですよね。

――新井さんが紙からデジタルに移行しようと思ったきっかけは?

新井:石田君ですね。彼はデジタルで数々のハイクオリティな作品を生み出していて、そういうクオリティのものが個人でも作れるというのを見せてくれたんです。アニメーションは線だけではなく、色や撮影も含めて、全体でひとつの作品になっています。彼の作品を見て、別に紙にこだわる必要もないかなと思わされました。

――ここまでのお話をうかがっていると、石田監督の存在は相当大きそうですね。そんな石田監督から本作を制作するなかで無茶ぶりはありましたか?

永江:自分の記憶にあるのは、作画の修正で「いい感じにお願いします」「とにかくいい感じに」と指摘を入れられたことですかね。石田さんのチェックしている量が半端ないので、長く一緒にやっている人に対しては投げないとアニメが完成しなかったからだとは思いますが、これは無茶ぶりかと。

加藤:「画力上げてください」とかありましたよね(笑)。

永江:あった! 「もっとこのシーンは画力を上げてください」とか、「このシーンはこだわりたいのでもっとクオリティを上げてください」とか(笑)。

加藤:「粘ってください」もありましたね。

永江:根性系も結構あったなぁ。ただ、石田さんが近くの席にいるので、「こうですかね」と聞くことができるんです。で、その場で「OK」と判断してくださる。だからやりにくいということはなかったですね。

新井:クリエイターとしては監督の要望に応えたいと思っているんですよね。

永江:そうですね。要望に応えることによって、監督が思い描いているフィルムには近づいていくと思うんです。正解がないとはいえ、それに応えることはきっと間違いではないと思うので。

――ここまでいろいろとお話をうかがってきましたが、皆さんが本作でぜひ読者の皆さまに注目してほしいシーンを教えてください。

新井:今回の僕の役割は全体を見るということだったので、いっぱいありますが……。強いて言うとすれば主人公のアオヤマ君とお姉さん以外のキャラクターですね。魅力的なキャラクターたちが作品全体の雰囲気を作りだしているとも思うので、フィルム全体を通して楽しんでいただきたいですね。

永江:個人的な注目ポイントとしては教室にいる生徒たちや周囲の小物をとても丁寧に描いたので、そういう細かいところまで楽しんでいただけたらと思っています。あと自分が担当した「ペンギンパレード」のシーンに関しては大変な物量を原画さんたちに描いて頂いているので、注目して頂きたいと思います。

加藤:自分が担当したところで言えば、アオヤマ君の妹が彼のところに来るシーンです。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、あそこは哲学的なテーマに触れていて好きなシーンなので、注目していただけると嬉しいです。あとは石舘さんがご飯の設定も起こしてくれているのですが、とてもおいしそうに見えるんですよ。食べたくなるような色ツヤのご飯にも注目していただきたいですね。

――原作を見ていて気になったのはタイトルにもなっているペンギンが登場するシーンです。

新井:そこは監督がいちばんやりたかったところだったと思います。監督の絵コンテを見てそのイメージを表現できるように頑張りました。

永江:変に迷いはなく、監督に提示していたただいたものを作った感じですね。

新井:自分が監督の絵コンテを見て「こうなるんだ」と思ったところは、海の中のシーンです。コンテだけ見て分かったのですが、真っ青な空に家が浮かんでいるという、見たことのないような絵ヅラをやろうとしていたんですよ。ゲームのような絵で、アニメでは新しさがあると思いました。実際に出来上がった画面を見て皆さんがどう思われるのかはわかりませんが、海の中のシーンはこだわっているので、気にして観ていただけると嬉しいですね。

――石田監督を含めて皆さんはスタジオコロリドで働いている仲間ですが、他の制作会社と比べて独特だと思うところはありますか?

永江:サークルっぽい(笑)。

新井:年齢が近いからかな。

永江:2階で3時になるとラジオ体操をするときがあるのも特徴かもしれません。

加藤:あとは自分たちで掃除をしているところですかね。

――スタジオはとても綺麗ですよね。

加藤:もちろん掃除業者さんにも入っていただいていますが、定期的に自分たちでもやっています。

永江:間崎さんという方がいらっしゃるのですが、その方が「掃除はみんなでやろう」と声を上げてくださるんです。いいことなので、みんなでやっています。