▼以前の私と同じ表現ではいけない
――10年の活動を振り返っていただきありがとうございました。そんな活動を経て、8月1日にアニメダブルタイアップのシングルが発売されました。まずはTVアニメ『かくりよの宿飯』のEDテーマ曲「知らない気持ち」についておうかがいできればと思います。
この曲はシングルとしては久しぶりのバラード曲です。活動を再開してからは2枚のシングルと1枚のアルバムをリリースしていますが、タイトル曲やリード曲では「帰ってきました」というのをアピールしたかったので、あまりスローテンポなものをあえて選ばないようにしていました。ただ、自分の違った味を感じてもらうにはバラードだろう、そろそろバラードも歌いたいなという気持ちもあって……。そんなとき『かくりよの宿飯』の第2クールのEDのオファーをいただき、しかもバラードでという提案が監督からあったんです。
――気持ちが一致した。
そうです! 自分が歌いたい曲調の曲だったので、気持ちよく歌えました。一方で数年前の私と今の私が歌うバラードでは表現が違っていなきゃいけないという自分を試すような気持ちもありました。
――そんな楽曲を制作されたのがシンリズムさんです。シンリズムさんにお願いしようと思ったのには何か経緯があったのですか?
今までの自分とは違う表現をという気持ち、またバラード曲を歌ううえで自分よりも年下のフレッシュなクリエイターの方にお願いしたいと元々思っていたことから、20歳の新進気鋭のシンガーソングライターであるシンリズムさんにお願いしました。ただ、20歳とは思えないくらい歌声も大人っぽくて、落ち着きのある方だったのでビックリしましたね。
――いい意味でフレッシュさを感じなかった?
そうですね。曲に関しても歌詞には所々に青臭さを入れてくださったのですが、全体の雰囲気は背伸びをしていない、自然な大人感を表現してくださいました。なので、曲をいただいたときからその雰囲気を壊さないように歌おうと決めていましたね。私が大人っぽくしようと意識するのは絶対に違うと思ったので、背伸びせずに歌いました。
――それは物語が核心に迫っていく作品にもマッチしそうですね。
そうなんですよ。特にサビのユニゾンの部分。あそこは聞いていただく方に主人公の(津場木)葵と大旦那をパッと想像してもらえたら、と思いながら歌っています。アニメソングってそうやってキャラクターや作品を思い出せるようなものだと思うんですよね。
――アニメタイアップ曲を歌っているときは基本的に作品のことを意識している?
曲によって主人公・ヒロインなど視点を変えますが、意識はしています。時にはどのキャラクターと決めずに、作品全体に通ずるように歌うときもありますね。今回の曲は葵だけの気持ちではなく、大旦那の心情も表していると感じました。だから、第三者の立場から二人を見ているような感じで、物語全体を包み込むEDテーマ曲になればと思っています。
――なるほど。様々な思いを込めて歌っているかと思いますが、シンリズムさんからはどのようなディレクションを受けましたか?
その点においては、20歳だなーと感じました。
――えっと……。
ずっと恐縮している感じだったんです(笑)。「素晴らしいです。中島さんの歌、すごく上手で」とずっと褒めてくださいました。とっても気分がよかったです(笑)。
――社会人の先輩を立てるような感じだったんですね(笑)。ではあまりディレクションなどはなかった?
そうですね。基本的には私の提示したものを気に入ってくださったので、細かいディレクションは特にありませんでした。逆にシンリズムさんが今回の曲のコーラスを収録されているところに私が立ちあって、「いい感じです!」「さっきのすごくよかったです!」という感想をキューボックスから伝えていました(笑)。
――そのときもシンリズムさんは恐縮されていた?
「あっ、そうおっしゃるなら」みたいな感じでしたね(笑)。
▼年齢感についてはたくさん質問しました
――楽しいレコーディングだったということがよく分かりました(笑)。続いてもうひとつのタイアップ曲「Bitter Sweet Harmony」について教えてください。こちらはTVアニメ『すのはら荘の管理人さん』のOPテーマ曲で、どことなく“幸せ”を感じる曲です。
『すのはら荘の管理人さん』は飛び切り嬉しいことや悲しいことが起きるというよりも、変わらずに待ってくれている人がいる、その当たり前の日常が幸せだということが描かれている作品だと思います。そんな幸せなループ感を作品から感じましたし、kzさんが書いてくださった曲からも感じられました。
――「知らない気持ち」とは落差のある曲ですね。
「知らない気持ち」は自分の気持ちと向き合い、一人で日記や手紙を書き連ねるような真摯さがある曲です。一方、「Bitter Sweet Harmony」はアニメを見てくれた人、またはこの曲を聞いてくれた人が一日の疲れを吹き飛ばしてもらえたらいいな、頭を空っぽにしてもらえたらという想いを込めている曲ですね。
――なるほど。先ほど本曲をプロデュースされているkzさんのお名前があがりましたが、中島さんは以前にも共演されていますよね。
2012年に「livetune」さん名義で出された「Transfer」という曲にゲストボーカルとして参加しました。この曲、自分のライブでも何度か披露したことがあるくらい好きなんです! だから、私もいつかはkzさんに曲を書いてほしいなと思っていて……。6年越しにようやくご一緒することができました。
――念願がかなったんですね!
はい! 「Transfer」のときも頭から最後までディレクションをしてくださったのですが、とても簡潔かつ的確にアドバイスをしてくださったんです。なので、今回もkzさんにたくさん意見を聞きながらレコーディングしました。中でも年齢感についてはたくさん質問しましたね。
――年齢感?
はい。この曲は、すのはら荘の管理人さんである春原彩花さんのイメージが私のなかにあったので、20代中盤くらいの年下を可愛がるお姉さん感を歌で表現したかったんです。ただ、明るい曲だから可愛さも欲しい、とはいえぶりっ子にはしたくないという想いもあって……。そんな難しい表現を実現するために、kzさんに一行ずつ「ここはどうですか?」と年齢感を確認しながらレコーディングを進めました。きっと自分一人ではこの歌い方を作れなかったと思います。
――二人三脚で作っていった曲なんですね。「Bitter Sweet Harmony」はMVも収録されたとうかがいました。
MVはイラストレーターのちゃもーいさんのイラストと実写がミックスされたファンタスティックな映像になっています。これまでのMVのなかで一番ポップな仕上がりになっているんじゃないかな。目くるめく世界が広がっていく感じの面白い映像ですね。
――場面がどんどん変わっていく感じ?
そうですね。フルで見ていただいても楽しいですし、ワンシーンだけ切り取ってみても面白い作りになっていると思います。