フジテレビのドキュメンタリー枠『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で昨年10月に放送された番組『人殺しの息子と呼ばれて…』が書籍化(KADOKAWA刊)されたのを記念してこのほど、東京・新宿の紀伊國屋書店本店で、著者である番組チーフプロデューサーのフジテレビ・張江泰之氏と、ノンフィクション作家・豊田正義氏によるトークショーが行われた。注目を集めた番組の本ということもあって、会場は満員の盛況。なんと、“息子”からのメッセージも寄せられた。
頻繁にLINEする仲から次のステップへ
『人殺しの息子と呼ばれて…』は、2002年に発覚し、メディアが報道を差し控えたほどの残虐な方法で、犯人の親族ら7人が殺害された北九州連続監禁殺人事件の犯人の息子(当時24歳)が、初めてメディアのインタビューを受けたもの。今回の書籍は、張江氏による10時間にもおよぶインタビューの内容に加え、放送後の追加取材による息子の近況や、今後の展望まで収録。さらに、息子本人以外にも、後見人となった中学校時代の先生へのインタビューも行った“完全版”となっている。
一方の豊田氏は、この事件を追い続けベストセラーとなった『消された一家』の著者。 自らの取材経験をもとに、張江氏に番組制作の裏側などに切り込んでいった。
インタビューが実現したきっかけは、北九州の事件を追加取材した特番『追跡!平成オンナの大事件』に対し、息子がフジテレビに抗議の電話を入れてきたことだった。張江氏は「やっぱり来たか…」と思いながらもしっかりと向き合い、そこから毎日電話での交流がスタート。今では、事あるごとにLINEでやり取りする仲だ。
先日の西日本豪雨の際は、北九州も大雨に見舞われたことから「雨、大丈夫か?」と送ると「死にかけた…」との返信があるものの、まだ一度もご飯を一緒に食べに行ったことがないそう。張江氏は「次のステップとして、ようやく後見人の先生と3人で行こうという話になっているので、その時にまたいろんな話が待ち受けているのかな」と予感を語る。
普段は死刑執行してほしいと言うが…
息子の印象について、張江氏は「すごく弁が立ちますね。理路整然ときちんと理屈立てて話して、自分が言ったことに対してこう返してくるだろうという予測を2つ3つ先まで読んでいる感じがする」といい、父親の松永太死刑囚を取材した豊田氏は「それはDNAですね」と解釈。そのことは、本人も認めているようだ。
息子は、そんな父親のことを知りたいという思いがある一方、母である緒方純子受刑者(無期懲役)については「(首謀者である)松永の言いなりになって、自分を守ってくれなかった」(張江氏)との思いから、憎悪の感情が強い。
それに対し、豊田氏は「彼が本当に1つ心理的に楽になるには、(母親が守ってくれなかったのは)松永のマインドコントロールなんだという分析ができて、母親に対して底の方に沈んでいる愛着が分かるようになれば」と願ったが、張江氏は「やっぱり、母親がなぜ息子を助けてくれなかったと思うのは当然だと思うんですよね」と理解を示した。
また先日、オウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚の刑が執行された際には、息子から真っ先に張江氏に連絡があったそう。「『死刑になったね』って言ってきて、その先は父親のことを言いたいんだろうけど、沈黙なんですよ。普段は『(死刑が)執行されてほしい』って言うんですけど、非常に複雑な心境なんだと思います」と振り返った。