キャリアとの契約、App Storeの審査からは、Appleがいかに、iPhoneを中心としたモバイルビジネスを慎重に推進してきたかが伝わってくる。理想的な、あるべき姿をできるだけ実現していこうとする意志と姿勢が強く打ち出されているのだ。

ユーザーが手に取りやすく、混乱せず、安全に利用できる環境を、通信やソフトウェアといった既に確立されたマーケットに対して「こうあるべきだ」と示しながら歩みを進めてきた。日本におけるソフトバンクのように、その可能性を見出して、Appleとの契約に同意してきた通信企業は、10年間で一定の成果を得られた。それはアプリの開発者も同様だった。

方針を貫いた結果、Appleは年間2億1,000万台のiPhoneを販売し、Fortune 500企業の売上高で4位、時価総額トップを誇る企業へと大きく成長したのは、過去をふりかえるビジネスのケーススタディとして、成功事例の筆頭に挙げられることだろう。

Appleは今後も、その慎重さと強い意志で、あるべき姿を追求していくことになる。もちろん、世界経済の動向や貿易戦争、移民問題、地政学リスクなど、様々な問題に直面する。しかしいかなる時でも、ユーザー体験を中心として考え抜かれた結論を出し続けるはずだ。

もしそこから外れたことを発見したら、迷わず声を上げ、伝えるべきであろうが、それもまた、Appleが望んでいることと言えるだろう。

松村太郎(まつむらたろう)


1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura