澤氏が表現する「礼儀正しく時間を奪う」という日本の悪しき習慣は、米国のベンチャー企業やIT企業で敬遠されつつあります。加えて、「年功序列・超低賃金・非IT化」といった要素で「働きたくない国No.1」と言われているのが日本。澤氏が所属する日本マイクロソフトも、数年前までは旧態依然とした状況だったといいます。

  • 日本企業に多く見受けられる悪意のない非礼や旧態依然とした企業構造。世界から後ろ指を指されていることを理解して改善していく必要があります

新しいことに反対する社内勢力が出現

日本マイクロソフトは、今でこそ働き方改革の牽引役としての姿が印象的ですが、旧新宿本社時代は紙文化でワークプレイスには文書を収納するキャビネットや箱で溢れていたそう。

フリーシッティング(どこでも自由に座れる仕事席)も夢のまた夢。同じ社内に席を並べていても、話をする相手はいつも同じ。会議に至っては、会議室が予約できるタイミングまで結論を先延ばしにするなどが常態化。この澱んだ流れを変えたきっかけは、現品川本社への引越プロジェクトだったそうです。

これを機に「紙は持ち込み禁止!」「フリーシッティングの採用!」と改革に乗り出したのですが、変化を嫌悪する日本人の性でしょうか。澤氏は「反対運動が勃発した」と振り返りました。「技術書を持ち込みたい」「固定席にしてくれ」といった意見に対しては、その意見を受理することでどれだけ成績が伸びるのかを数字の証明を求める“Business Justification(ビジネスの正当性を示せ)”というキーワードで立ち向かったのだとか。

  • 紙の持ち込みやフリーシッティングの導入を宣言すると抵抗勢力が出現

  • “Business Justification(ビジネスの正当性を示せ)”。評価を正しく行うため、どれだけその申し出が会社にとってプラスとなるのか論理立て数字で証明する。感情論ではなく、明確な評価軸でジャッジ

「在宅勤務」の指示だけで十分

かくして、2011年2月1日より、現品川本社での活動がスタートしたのですが、その矢先、東日本大震災が発生しました。実はこの悲しい出来事も働き方改革を根付かせる要因のひとつになったのではと澤氏は言います。

「当時社長を務めていた樋口さんより、2011年3月13日に1通のメールが送られてきました。その文面には「在宅勤務を奨励します」とあり、そのやり方や細かな指示は一切なし。でも、その指示だけで十分だったんです」と述べるとともに、「見えない“出勤しなくては!”というルールに縛られていただけだった。在宅勤務のマネジメントも“やれば出来る”と肌で感じた」ことが今に生きていると言います。

  • 樋口前社長からのメールを紹介する澤氏。ITインフラやルールが出来上がっていたため随所にちりばめられた「在宅勤務」というワードだけで十分に機能したのだそう

  • Skypeで遠隔地のスタッフとコミュニケーションを図るデモが行われ、時間や場所に囚われず業務に当たることが十二分に可能だと示してくれました

社内だけではない“外”の物差しを持ち、「あたりまえ」や「普通」を疑うこと。時間軸を踏まえながら働き方をデザインすること。そして、“Business Justification(ビジネスの正当性を示せ)”のように評価軸が明確で公平か――。働き方改革を実り多きものにしたいのであれば、これらの要素に注意を払いつつ、ITを上手に取り入れ効率化を図りたいところです。