笑顔とともに次世代へ託される魂のバトン

迎えたロシア大会。4年前に1‐4の大敗を喫した因縁のコロンビア代表を2‐1で撃破し、難敵セネガル代表に2度奪われたリードを執念で追いついた。ゴールを目指さないパス回しに終始し、あえて黒星を受け入れたポーランド代表戦のラスト10分間は世界中から非難された。

波乱万丈に富んだ戦いの軌跡は老若男女を問わずに魅了し、試合終了間際に発動されたカウンターでベルギーに屈した瞬間には未明の日本列島が涙した。出発時にはわずか150人に見送られた西野ジャパンを、5日の帰国時には1,000人近くの大声援が出迎えた。

「合宿や食事中などでみんなが口をそろえていたのは、期待されていない状況や雰囲気を絶対に覆してやろうということ。そういう思いが強かったからこそ、皆さまの期待を取り戻すこともできたと思う」

本田圭佑やDF長友佑都(ガラタサライ)、1歳年上のGK川島永嗣(FCメス)ら、グループCの最下位で敗退した前回ブラジル大会で喫した悔しさを糧に、捲土重来を期してきたベテラン勢の思いを結集。チームに還元しながら、逆境を力に変えるベクトルを強く、太く育んできた。

「いまは99%の満足感と1%の後悔がある。その1%はこれからのサッカー人生、その後の人生につなげていきたい」

凱旋した成田空港から市内のホテルへ移動し、日本サッカー協会の田嶋幸三会長、退任することが決まった西野監督とともに記者会見に臨んだ長谷部は清々しい笑顔を浮かべながらも、仲間たちから別れを惜しまれた件を聞かれるとちょっぴり感傷的にもなった。

「普段は僕のことを、恐らくうっとうしく思っているはずなんですよね。僕は若い選手にいろいろと言うので。だからこそ涙してくれる選手や、嬉しい言葉をかけてくれる選手たちがいたというのは、僕にとっては言葉では表せない喜びです。本当に素晴らしい仲間たちを持ったとあらためて思っています」

記者会見を終えた瞬間に日本代表として、キャプテンとして担ってきたすべての仕事も終わる。少しでも代表との絆を紡いでいたかったのか。ひな壇のうえで、そして記者会見場から退出するときに、長谷部は深々と頭を下げた。

「これからは僕も日本代表チームのサポーターです。一緒に日本代表チームに夢を見て行きましょう」

大役を務めあげた胸中に抱いていた長谷部の熱き思いは、件のインスタグラムの最後に綴った一文に凝縮されている。偉大なるキャプテンが先駆者たちから託され、8年間も握りしめてきた魂のバトンは、4年後のカタール大会で快進撃の続編を担う次世代へと受け継がれる。

  • 長谷部誠
■筆者プロフィール
藤江直人(ふじえ なおと)
日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。