スズキ「ジムニー」が20年ぶりのフルモデルチェンジを果たした。一見して感じるのは、「四角くなっている!」ということ。メルセデス・ベンツ「Gクラス」をも思わせるような造形にたどり着いた「ジムニー」だが、スズキのデザインに関する考え方とは。新型ジムニーのデザインを担当したスズキの高羽則明氏(エクステリア担当)と辻村隆光氏(インテリア担当)に話を聞いた。

  • スズキの新型「ジムニー」

    新型「ジムニー」の四角くなったデザインについてデザイナーに話を聞いた

不易か流行か、スズキ「ジムニー」のデザイン哲学

そもそも20年もの間、モデルチェンジを行わなかった、あるいは行わずに済んだ理由が、まずは気になった。クルマのデザインにも流行はあるはずだが、この点について高羽氏は「ジムニーが、かなり特殊なクルマというか、他にライバルがいないクルマであったことが大きい。このクルマでなければできないこと、機能に特化した部分があるから、あまり変える必要がなかった」とする。

そんなジムニーではあるが、今回のフルモデルチェンジでは造形が大きく変わっている。なぜ四角くなったのか聞くと高羽氏は「造形・カラーは前のモデルから大きく変えた。現行モデル(3代目)は非常に好評だったが、あのクルマが出た当初は、『(2代目に比べて)丸くなったね』とか『Aピラー(フロントガラスの横の柱)が寝たね』といったように、ジムニーが好きなお客様からは若干、批判もあった」とし、「今回は、もともと持っている機能・性能に原点回帰しようということで、このデザインが生まれてきた」と新しいデザインの方向性が決まった背景を説明した。

  • スズキの先代「ジムニー」
  • スズキの新型「ジムニー」
  • こうして並べてみると、先代=3代目(左側、2014年8月に発売となった「ジムニー ランドベンチャー」)と新型=4代目の違いがよく分かる。ちなみに、ジムニーは初代も2代目も四角かったので、3代目だけがデザイン的に異質の存在と見ることもできる(ジムニー ランドベンチャーの画像提供:スズキ)

「Gクラス」に似ているとの声は届いている?

昨今のSUVブームで多くの新型車が市場に登場しているが、新型ジムニーをデザインする上でトレンドはどの程度、意識したのだろうか。「ベンチマークすることはあるが、デザインを提案する上で『トレンドがこうだから、こうしよう』という考え方は、今回は一度もない」と高羽氏は断言した。「このクルマでなければ行けない場所で仕事をしている人に、しっかり使ってもらえるという事を訴求する必要あったので、原点回帰でデザインすると、必然的に四角くなった。小型車で言うと、(スズキには)『イグニス』や『クロスビー』があるので、今っぽいというか、そういうSUVが欲しい人は、そちらに行くのでは」

  • 新型「ジムニー」のデザイナー

    新型「ジムニー」のデザインを担当したスズキの高羽則明氏(エクステリア担当、左)と辻村隆光氏(インテリア担当)

スクエアで水平基調のボディは、視界のよさもあいまって、ドライバーからするとクルマの姿勢・状況が確認しやすい。森に入ったりオフロードを走ったりして、大きく傾いたりタイヤの一部が宙に浮いたりする可能性もあるジムニーが、このような形になるのも必然というわけだ。

では、Gクラスを意識した部分はあるのか。「ちょっと似ているという話は聞く」とする高羽氏だが、「もともと、プロユースで機能に特化していこうという話で進めているので、例えば、どんな天候でも使うクルマとして、ドリップレール(ボディの屋根から雨がたれてくるのを防ぐパーツ)などは必須になる。そういうものをちりばめていくと、機能に特化したクルマは似てくる傾向にはある。例えばフェンダーも、丸ではなくて台形にしてあるが、これは隙間を空けることで、パンクの時などに手を入れやすくするため。『ジープ』なども台形になっている。機能に根ざした考え方をしていくと、その方向性にいくのかな」との認識を示した。

  • メルセデス・ベンツ「Gクラス」
  • スズキの新型「ジムニー」
  • 全く違う価格帯ではあるが、「Gクラス」(左側)と「ジムニー」(画像提供:スズキ)は共通の価値観を分有する2台のクルマなのかもしれない

美しさや格好よさを求める場合、クルマのデザインは多様になり、その範囲は放射状に拡がっていくが、機能を追求すれば、クルマのデザインは中心点に向かって集約していく。そんなイメージなのかもしれない。