スズキは軽自動車「ジムニー」と小型車「ジムニーシエラ」をフルモデルチェンジして発売した。SUVでありつつブームとは一線を画し、トレンドに右顧左眄することなく無骨に進化を遂げた新型「ジムニー」は、“クルマのコモディティ化”とは対極にいる存在なのかもしれない。

  • スズキ「ジムニー」と「ジムニーシエラ」

    フルモデルチェンジを果たした「ジムニー」(左)と「ジムニーシエラ」

軽で唯一の本格四輪として誕生

「『スズキといえばジムニー』といわれるほど」。新型の開発を担当したスズキの米澤宏之チーフエンジニアは、ジムニーの愛され具合をこのように語り、このクルマを「スズキの顔の1つ」と位置づけた。

1970年に登場した初代ジムニーは、360ccのエンジンに16インチの大径タイヤを履く、軽自動車で唯一の本格四輪駆動車として誕生した。当時の四駆は高価格で、産業用と法人向けに需要が限られていたこともあり、市場規模は年間5,000台程度だったそう。そこに廉価で手軽な四駆という個性を備えて登場したジムニーは、機動性を売りとして建設、土木、林業などの産業で活躍しつつ、山間部や積雪地帯で暮らす人々のパーソナルユース需要に応え、レジャーに使えるコンパクト4WDという新たな市場も開拓したという。

個人ユーザーの存在を強く意識し、居住性の向上と乗り心地の改善を図った2代目は、1992年にオートマチックトランスミッション(AT)を導入した効果もあってか、1993年には同シリーズで国内過去最高となる年間3万台の販売を達成した。3代目は「軽自動車で唯一のクロスカントリー4WD」という独自の価値を継承しつつ、乗用的な付加価値を取り入れながら、20年にわたり改良を繰り返してきた。今回の新型はジムニーの4代目となる。

  • スズキ「ジムニー」

    4代目となる新型「ジムニー」。サイズは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,725mmだ

プロユーザー狙いで開発した理由

新型ジムニーの開発は、国内外で蓄積した知見を集約し、ジムニーとして継承すべき点と進化させるべき点を明確化することから始めたという米澤チーフエンジニア。どんな顧客がいて、どんなニーズがあるかを徹底的に検証した結果、ジムニーには「プロユーザー」「日常ユーザー」「一般ユーザー」の3つの顧客グループがあるとの考え方にたどり着いたそうだ。

  • ジムニーのターゲット層に関するスライド

    「プロユーザー」は林業や電設業など、道具としてジムニーの性能を最大限に活用する層、あるいは、オフロード走行や本格的なアウトドアレジャーでジムニーを相棒とする層だ。それに対し「一般ユーザー」は、プロの道具など「本物」に憧れ、街乗りが主体でありながら、本格四輪駆動やタフさを感じるデザイン、その“本物感”に惹かれるとスズキは見る

そういった顧客の中で、新型ジムニーがメインターゲットに据えたのがプロユーザーだ。この層に響けば、当然ながらピラミッドの下の方に位置するユーザーにも魅力的なクルマに仕上がる、というわけだ。開発コンセプトは「本格的な4WD性能と無駄のない機能美を併せ持つ、世界に認められるコンパクト4×4」(4×4は四駆のこと)とした。