相手に「好奇心」をもて!
やはり、経験が大事なわけですね。
そうです。やはり量をこなさないと何事もうまくなりません。ちょっと話は変わりますが、人気の占い師さんは、なぜ当たるかと言えば、豊富なデータを持っているからですよ。人気者ゆえに、多くのお客さんが集まってくる。つまりそれだけ、たくさんデータを集積できる。だから、この人はこういうタイプだなというのが類型化でき、アドバイスすると当たるわけです。やはり経験です。
頭ではわかるんですが、元々苦手としているので「経験を積め」と言われても、一歩踏み出すにはちょっと勇気がいりますね。
「うまくやらなきゃ」と思ってしまう?
それはありますね。だから、緊張してしまうんだと思います。
西谷さんの場合、ライターさんですから新しいことを聞きにいったり、初めての人に会ったりされますよね?
そうです。
だったら、シンプルに「面白そうな話を聴きに来ました」というふうに、相手に対して「好奇心」をもつのが一番だと思います。「自分の聴きたい話が聴けちゃう」と思えば、相手にのめり込んで向き合えるわけですから、緊張感も緩和されるんじゃないですか?
確かに、こないだも興味がある速読に関して話を聞いたときは、話が弾んだよなー。取材だったけど、全然緊張もなく、楽しい記憶しかないな。
相手は自分と違う人生を歩んでいるわけだし、1つや2つ面白いネタ(データ)をもっていますよ、絶対に。それを知ることで、その人自身にも興味が湧いてきて、嫌だったコミュニケーションもだんだんと好きになれるんじゃないですか。
相手に好奇心を持つことで、これまでの景色が変わっていくということですか。
そうです。こういっては身も蓋もないですが、喋りのテクニックなんてどうでもいいわけです。不器用で、訛りがあって、喋りはそんなに上手くないけど、なぜか好かれちゃう人っているじゃないですか。目指すは、そんな人だと思うんですよね。
苦手な相手には、演じてデータを集積しろ!
でも師匠、例えば営業職ならお得意先に嫌な人って、必ずいるじゃないですか。その場合はどうしたらいいのでしょうか?
嫌いというのは、怒りという感情を抑えられない状態ですよね。つまり、自分の感情を相手に握られて、相手に主導権をとられている。そんな状態なわけですよ。
主導権は相手にあると言うことですか。
そう。自分にイニシアチブ(主導権)を持ちたいなら、感情に振り回さないようにすること。つまり、この時間は相手のデータを収集するために、相手に好奇心をもっている人を演じるんです。
その通り! プロとして、相手には最低限の不快感を与えないぞという姿勢で、臨む。もしかしたら演じているうちに、「案外この人面白い見方をするな」とか、「僕と似ているから反発したくなるのかな」とか、新たな魅力や気づきが見えてきたりするものです。また演じることで、向こうも態度を変えることだってありますし。
ずっと嫌がっていても、進歩はしませんからね。
よくわかっているじゃないですか。ビジネスなので、プライベートは付き合わなくてもいいわけですから、割り切ってやってみる。経験を増やせばデータが集積されて、嫌いな人(苦手な人)とのコミュニケーション力を高めるスキルも磨けますし。
なるほど、ここでも経験が生きてくるわけですね。師匠の話を聞いて、苦手としていたコミュケーションができそう気がしてきました。
喋りが専門の噺家さんなのに、聴く側に集中するとはとても面白い視点でした。でも、なぜそのような発想が生まれたのか。
どうも、それは師匠である立川談志さんから教わったものらしい。天才と呼ばれた立川談志さん、どんな教え方なんだろう? 後編を乞うご期待!
プロフィール : 立川談慶
落語家
生年月日:1965年
出身地:長野県上田市(旧丸子町)生まれ
趣味・特技:ウェイトトレーニング歴10年、ベンチプレス120kg
慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社ワコールに入社。3年間のサラリーマン体験を経て、91年立川談志18番目の弟子として入門。 前座名は「立川ワコール」。2000年に二つ目昇進を機に、立川談志師匠に「立川談慶」と命名される。
05年、真打昇進。慶應大学卒業の初めての真打となる。