苦しい時間帯にこそ歯を食いしばって頑張れる原口

雌伏して時の至るを待つ――の思いを貫きながら乾が己を磨き続けていた間に、ハリルジャパンの左サイドに絶対的な居場所を築き上げたのが原口だった。群を抜く存在感は、ロシア大会出場をかけたアジア最終予選の初戦で、UAE(アラブ首長国連邦)代表に屈した日本を蘇生させる。

タイ代表との第2戦を皮切りにイラク代表戦、オーストラリア代表戦、サウジアラビア代表戦と4試合連続ゴールをマーク。日本が戦ってきたアジア最終予選の歴史では初めての快挙だったが、原口がハリルジャパンに与えたのはゴールだけではなかった。

左タッチライン際で何度も上下動を繰り返す。日本の誰よりも走り回った。倒されてもすぐに起き上がり、歯を食いしばりながら相手を追いかける。執念をむき出しにした、鬼気迫る表情で守備に奮闘する姿が相手に威圧感を、チームメイトには安心感を与え続けた。

ジュニアユースからひと筋で育った浦和レッズ時代は、代名詞でもあるドリブルをどんどん仕掛ける一方で、いわゆる「お山の大将」的な部分も持ち合わせていた。自身のストロングポイントを出せれば満足していた原口に変化が生じ始めたのは、ロンドン五輪出場を逃した2012年だった。

今の自分に足りないのは何か――繰り返された自問自答の末に弾き出された答えは、チームのために我を捨てて献身的に戦うこと。オフ・ザ・ボールにおける泥臭いプレーは、前回ブラジル大会における落選、直後に新天地を求めたドイツでどんどんスケールを増す。今では胸を張ってこう言う。

「誰よりも多く走り、チームのために働くことが僕の大前提。次こそは絶対に自分が日本代表の中心となって、ワールドカップに出るだけではなく、ワールドカップで勝つための選手になりたいと思ってきた。この4年間はすごく長かったけど、4年前と今現在の自分を客観的に比較すれば、いろいろなことを経験してきた分、すべてにおいて成長できた。ロシアではそれを表現したい」

  • 003のalt要素

攻守両面の活躍で日本に勝利を

しかし、ワールドカップへの道のりは決して順風満帆ではなかった。シーズン終盤に右太ももを痛めた乾は、先月下旬から千葉県内で行われた代表合宿で別メニュー調整に終始した。それでも西野監督は「他の日本人にいないタイプ」と完治を待ち続けた。

ヘルタ・ベルリンとの契約延長を拒否した原口は、2017-18シーズンの前半戦で実質的な戦力外となった。出場機会の減少はさまざまな悪循環を招く。今冬にはブンデスリーガ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフへ期限付き移籍し、ロシアへの希望を紡いだ。

「ヘルタで試合に出られなかった時も、それほどネガティブに思っていなかった。僕自身、成長するために毎日の練習へ臨んでいたし、いい時も悪い時もいろいろなことを勉強させてもらった」

大きく揺れたシーズンをこう振り返った原口を、西野監督は初陣だった先月30日のガーナ代表戦から右サイドで起用した。ロシアで対峙する各国の強力なサイドアタッカーを封じるには、苦しい時に誰よりも頑張れる原口が必要不可欠だと判断したからだろう。

ポーランド代表との初戦通りなら、セネガル代表の左サイド、つまり原口の対面では世界最速のアタッカー、サディオ・マネ(リヴァプール)が脅威を放った。そして乾の対面には20歳の超新星、イスマイラ・サール(レンヌ)がいる。味方との連携でいかに彼らを封じ込めるかが勝敗に直結してくる。

その上で攻撃でもチャンスを切り開く。斧をほうふつとさせる、パワフルなドリブルを武器とする原口は、実は前出のサウジアラビア戦を最後に約1年7カ月も代表でゴールを決めていない。

「誰よりもたくさん走ること。その先にボールが来れば決められると思う。そう信じて走りたい」

原口が自身の存在価値に対して力を込めれば、カミソリを連想させる鋭いドリブルで相手守備網を切り裂く乾は、「一緒にやりたい」とゴールデンコンビ再結成へラブコールを送っていた、MF香川真司(ボルシア・ドルトムント)との先発共演を手繰り寄せた。

同じ学年の乾と香川がJ2を戦っていたセレッソで出会い、2人で47ゴールを量産したのが2009シーズン。「あの時のような感じでプレーできれば理想的ですね」と目を輝かせていた乾は、12日のパラグアイ代表との国際親善試合で、ともに香川のアシストから2ゴールを決めた。

来シーズンから乾はレアル・ベティス、原口はハノーファーへ移籍する。すれ違いが続いた中でもワールドカップを夢見て成長を続け、西野監督から寄せられる信頼の下で日本の両翼を担った乾と原口。攻守両面でいかに雄々しく、かつ力強く羽ばたけるかに日本の命運がかかってくる。

  • 004のalt要素
■筆者プロフィール
藤江直人(ふじえ なおと)
日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。