メルカリが東京証券取引所マザーズへの新規上場を機に開催した記者会見に足を運んだ私は、「世界進出」を真剣な表情で語る創業者・山田進太郎氏の話を聞きながら、何か自分が、別の時代から現代に迷い込んだ人間であるかのように感じた。なぜなら、破竹の勢いを誇示する当のメルカリというサービスを、私は使ったことがなかったからだ。
世界を目指すメルカリを見て感じた不安
誰かにとっては価値のないものでも、他の誰かにとっては価値がある。ここに目をつけて、中古品を個人間でやり取りするスマートフォン用アプリを作ったのがメルカリだ。既存サービスもある中で、メルカリがこだわったのは使いやすいアプリであることだった。
会見では、創業者で代表取締役会長兼CEOの山田氏が、なぜメルカリを作ろうと考えたかを語る場面があった。世界一周の旅で多くの新興国を巡り、全ての人が豊かさを求めているにもかかわらず、資源が限られているためにそれが困難である状況を目の当たりにした山田氏。2012年に帰国すると、日本ではスマートフォンが急速に普及し始めていた。山田氏は回想する。
「全世界の人が、このパワフルなツールを使うようになると確信した。スマホで個人と個人をつなげることができれば、もっと資源を大切に使うことができて、皆が豊かな生活を送ることができるかもしれない。そこで、スマホ上で個人間取引に特化したマーケットプレイスを作ることにした」
「成し遂げたいのは、テックカンパニーとして世界を目指すこと」。インターフェースを改善することにより、メルカリで日本の個人間取引を牽引し、最近はAIも実装するなどテクノロジーの進化に更なる磨きをかけてきたと語る山田氏が、今後の目標とするのは「日本を代表するテックカンパニーといわれる存在」だ。テクノロジーは世界展開の武器になるという。
山田氏のスピーチが進行するうちに私は、だんだん不安になってきた。会見場に詰め掛けた多くの報道陣はもちろん、世の中の人の大半は、この壮大な目標を語る山田氏が作ったメルカリというアプリを、当然のように日常的に使っているのでは、と感じ始めたからだ。陳腐を承知でいわせてもらえば、それは群衆の中の孤独とでも表現したくなるような感覚だった。
ところが、そこまで悲観する必要がないことはすぐに分かった。メルカリで売買されている商品の多くはアパレルだと聞いて、どちらかといえば多くのユーザーが若者であることは容易に想像できたし、利用者層の拡大がメルカリにとって課題であることが、同社取締役社長兼COOの小泉文明氏と話してみて了解できたからだ。