資源問題への対応は待ったなし
全固体LIBは純粋な技術開発として挑戦しがいのある対象であり、本来は競合関係にある私企業が一致団結し、また大学や研究機関とも協力して、国のプロジェクトとして技術立国・日本の雌雄を決する取り組みで力を合わせるのは歓迎すべきことだと感じた。
一方で、現行のリチウムイオンバッテリーメーカーOBの言葉として、「ポストリチウムイオンはリチウムイオンだ。現状のリチウムイオンを舐め尽くすべき」との声もある。
また、現行のリチウムイオン電池と全固体LIBでは、リチウムを含む電極材料などは基本的に同じものを使うため、今回のプロジェクトで資源問題を解決できるわけではないとNEDOの細井氏は述べている。
したがって、全固体LIBが実用化したとしても、そのリユースやリサイクルなどは不可欠となる。このプロジェクトにおいても、3R(リデュース、リユース、リサイクル)への対応を視野に入れた低炭素社会のシナリオデザインを行うとしている。
とはいえ、日産がEV「リーフ」の発売前に設立したフォーアールエナジーによって、この春にようやく中古電池のリユースを始めたことからも分かるように、EVとして使い終わったリチウムイオン電池を有効活用するには、その準備に長い年月を必要とする。先ごろ、トヨタとセブンイレブンが発表した、ハイブリッド車(HV)の中古ニッケル水素電池を用いた定置型蓄電池の実証においても、まだ日産のような1セルごとのレベリング技術は確立されていない。フォーアールエナジーの社長インタビューにもあるように、その点にはトヨタも、また全固体LIBを扱う各社もこれから苦労するだろう。
大局観なしではガラパゴス化の危険も?
今回のプロジェクトで懸念されるのは、研究・開発そのもの以上に、2030年における社会や交通の在り方に対するグランドデザインがまったく語られず、現行のEVやリチウムイオンバッテリーに比べ、全固体LIBの性能がいかに高いかという点に終始したことだ。それでは、技術ができても社会に適応した交通政策と合致するかどうかは分からない。
それに対し、例えばドイツのアウディは、2030年に都市部に住む人の割合が世界人口の60%を超えるとする国際連合の推計を基に、どのような住環境が生まれ、そこに適合する交通手段はどのような姿であり、そこへ個人的な移動の自由を約束するEVがどう関わっていけるかといった視点で物事を語っている。単に技術的な優位性があるか無いかではなく、生活に役立つ技術とは何かを問うているのだ。
そこに先進技術が組み合わさることではじめて、日本が世界をリードすることができるのではないだろうか。技術だけが先行しても、現実の暮らしに根差した事業を進める諸外国の後塵を拝するのではないか。“ガラケー”ではないが、島国の閉鎖された中で、他国がやっていないから勝てるのではないかといったような、視野の狭い取り組みにならないことを期待したい。