バスは移動手段。滞在するとか暮らすとか、いわんやオフィスだとかは縁遠い存在だろう。しかし、そんなバスをハブとして、旅をしながら旅を仕事にしている会社がある。彼らにとっては、バスは家であり、オフィスであり、旅の相棒だ。そんな「ON THE TRIP」のバスの秘密を聞いてみた。
旅をしながらコンテンツを生み出す
「ON THE TRIP」は2016年11月に設立された会社であり、現在はトラベルオーディオガイドアプリ「ON THE TRIP」を通じて、旅の体験をふくらませる事業を展開している。「ON THE TRIP」はTABI LABO創業者の成瀬勇輝氏とコピーライターの志賀章人氏をメインメンバーとなり、「旅を仕事に」を共通項として出会った仲間たちが今、ひとつ"バスの中"で同じ夢を抱いている。
「ON THE TRIP」が大事にしているのは、いわゆる情報だけではなく、その土地が持つ歴史や文化とつながる体験そのもの。スマートフォンを通じて旅先で「スポットガイド(0円~)」をダウンロードし、観光スポットの見どころをGPSと連動しながら"その場で"ガイドすることで、記憶に残る旅体験を促す。多言語(日本語、英語、繁体字、簡体字)で展開することで、訪日外国人も巻き込んだアプリとなっている。
アプリ「ON THE TRIP」のコンテンツは、旅を続けながら生み出している。その地を踏んで展望し、人々と土地との出会いを通じて、その地に根付く物語と心に残った物語をつむぎ出す。現在は東京・千葉・京都・奈良・沖縄(まもなく公開予定)等のコンテンツがあり、2018年6月現在、富士山コンテンツを製作中。次なる目的地は伊勢だ。その次を志賀氏に尋ねると、「僕たちが行きたいところ」という回答。「ON THE TRIP」が意味する"旅の途中"とは、そういうことなのだろう。
青年「ハンク」に憧れて
ではなぜ、「ON THE TRIP」の相棒にバスが選ばれたのか。それは、「ON THE TRIP」のビジョンに合致する存在だからということだが、その根底には、「青年『ハンク』は中古のスクールバスを買って旅に出る」というGIGAZINE(ギガジン)の記事を読んで生まれた憧れがあったという。
その想いを受け止めてくれたひとりが、夜行バス「VIPライナー」等を展開する平成エンタープライズの田倉貴弥社長。400台以上のバスを抱える大企業として、「バスで物語を作ろうとしている若者に、バス会社が協力しなくてどうする」という言葉とともに、バス1台を無料で提供してくれたという。バスの提供のみならず、バスの運転方法、工具やガレージの提供、さらには、改造費のサポートやパーツの相談にものってくれ、田倉社長との交流は現在も続いている。
そうして選ばれたのが、トヨタのマイクロバス「コースター」だが、バスはバス。そこには席が並び、居住空間やオフィス空間は設けられていない。そもそも、バスは普通免許では運転することができない。そのため、「バス」から「キャンピングカー」に変更する必要があった。また、結果的にそうなったという程度の意識だったようだが、バスよりもキャンピングカーの方が車検頻度が少なく、ちょっとだけ税金が安くなるようだ。
バスの中に寝室をつくる
キャンピングカーにするためには、規程に合致した就寝設備や水道設備及び炊事設備等を供える必要があった。また、バスにはオフィスいう役目も兼務するため、打ち合わせができるデスクや、パソコンやプロジェクターや冷暖房等をまかなえるだけの電力、冷暖房などの快適な空間等も妥協できない。
そうした機能を備えつつも、目指したのは青年「ハンク」のようなバス。とは言え、青年「ハンク」は建築学を専攻していたが、「ON THE TRIP」のメンバーは全員DIY初体験ということもあり、手探りでの作業となった。
バスから不要な座席や床、天井をノミではがし、設計図を作成してホームセンターへ。実際はもっと複雑な計算が必要だったらしく、ホームセンターの方が親身に相談にのってくれたおかげで、正確な設計図と必要な材料がそろったようだ。
限られた空間を有効活用するために、収納ボックス付きのベットを左右に設置し、ふたり分の"寝室"を作成。そのベットの上に板を載せれば、3人が雑魚寝できるキングサイズにすることもできる。
続いてはキッチン。キッチンはキャンピングカー申請のための必須項目のため、「料理しないからいいや」というわけにはいかない。